自営業の夫、逝去…残された専業主婦妻、「遺族年金額」に戦慄【税理士が解説】

自営業の夫、逝去…残された専業主婦妻、「遺族年金額」に戦慄【税理士が解説】
※写真はイメージです/PIXTA

一家の生計を支えていた人が死亡し、妻や子どもが残された場合、その後の生活費をどのようにしてまかなえばよいでしょうか。わが国には、子どものいる妻の生活を保障するための「遺族年金」の制度があり、遺族年金には「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」があります。今回は、遺族年金について見ていきましょう。専門家が解説していきます。

 子どもがいる場合の「遺族年金額」は?

ある専門家のところに、若い相談者がやってきました。数年前に結婚し、お子さんもできて幸せいっぱいなのですが、自分に万一のことがあったら愛する妻子が心配だということで、遺族年金についてくわしく知りたいといいます。基本的な仕組みの説明を受けましたが、そこから見えてきた厳しい現実とは…。

 

相談者:公的年金には、老後に長生きしたときの生活費となる老齢年金だけでなく、世帯主である私が亡くなった後に残された妻や子どもの生活を守るための遺族年金があると聞きました。これはどのような制度なのでしょうか?

 

専門家:そうだよ、稼ぎ頭の君が先に死んでしまったら、奥さんやお子さんが生活できなくなってしまうよね。そんなリスクを守るために、日本には遺族基礎年金の制度と遺族厚生年金の制度があって、18歳までの子どもがいる遺族には、生活費が支給されることになっているんだよ。

 

相談者:18歳までというのは、未成年者という意味ですか?

 

専門家:これは、ちょっと細かな法律の決め事だけど、年金法上の「子ども」というのは、18歳に達する日以後の最初の3月31日までにある子、または、20歳未満で1級または2級の障害状態にある子であって、現に婚姻していない人のことをいうんだ。

 

遺族給付

 

相談者:遺族基礎年金と遺族厚生年金は、どのように違うのですか?

 

専門家:遺族基礎年金は、国民年金に加入していた人たちが、子どもが18歳になるまでもらえる年金なんだよ。20歳以上60歳未満の人たちは、すべて国民年金に加入する義務があるから、遺族基礎年金はすべての国民がもらえる年金だね。それに対して、遺族厚生年金は、第二号被保険者と呼ばれる会社員の人たちが遺族基礎年金に上乗せしてもらえる年金なんだ。

 

相談者:会社員のほうが、たくさん年金をもらえるんですね。

 

専門家:その分、会社員は年金保険料を多く納めているけどね。

 

相談者:国民年金に加入していると、いつでも遺族基礎年金がもらえるんですか?

 

専門家:いや、年金保険料をきちんと納めていないと、年金はもらえないんだ。保険料を免除されることもあるけど、加入していた期間の3分の2以上の期間の年金保険料を納めていないといけないんだよ。

 

遺族基礎年金の「受給資格・保険料納付要件・年金額」

 

相談者:子どものいない奥さんはどうなんですか?

 

専門家:子どものいない奥さんは、遺族基礎年金をもらえないんだよ。会社員の妻だと遺族厚生年金をもらえるけど、自営業の妻だと、かわいそうだけど何ももらえないんだよね。

 

相談者:なるほど、遺族基礎年金は養育費みたいな感じですね。それで、金額はいくらですか?

 

専門家:遺族基礎年金は、2022年度では一律777,800円、子ども1人につき224,700円だったから、ひとりっ子だと100万円、2人きょうだいだと125万円だと覚えておけばいい。3人きょうだいはちょっと少なくなって135万円くらいなんだけどね。

 

相談者:年間100万円だと、月に8万円ちょっとしかもらえないんですね。それでは生活が苦しいですよ。

 

 

専門家:そうかもしれないね。だから、会社員の夫が亡くなった場合には、遺族厚生年金が上乗せして支給されるんだ。しかも、子どもが18歳になったあと、一生涯にわたってもらえるんだ。

 

 

相談者:それはいいですね! 遺族厚生年金は、会社員の遺族であれば、誰でももらえるんですか?

 

専門家:いや、遺族基礎年金と同じで、加入していた期間の3分の2以上の期間の年金保険料を納めていないともらえないんだよ。

 

相談者:遺族基礎年金の金額はいくらですか?

 

専門家:年金額は、夫の死亡時までの年収や加入期間に応じて変わるんだけれど、老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3なんだ。

 

相談者:えーっと、老齢厚生年金の報酬比例部分って何ですか?

 

専門家:老齢厚生年金というのは、会社員が65歳からの生活費として一生涯にわたって受け取ることができる年金のことだね。10年以上加入という要件はあるけどね。それは、わかるかな?

 

遺族厚生年金の「受給条件・年金額」

 

相談者:はい、老後の年金のことですね。それが報酬比例って何ですか?

 

専門家:これはね、夫がもらってた報酬の金額の大きさと年金の加入期間の長さによって計算する年金額のことなんだ。正確な計算式は難しいから、毎月の報酬の0.6%に加入期間を掛けた金額が、支給される年金の報酬比例部分だと大雑把に覚えておいたらいいよ。この4分の3が遺族厚生年金だね。

 

 

相談者:働いた年数に比例するんですか? そうすると、夫が若くして死んでしまうと、年金額はとても小さな金額になってしまいますね。

 

専門家:そこは救済措置があるんだ。加入期間が25年未満の場合は、25年間すなわち300ヶ月加入したものとみなして遺族厚生年金を計算してくれるんだよ。夫が35歳で死亡したとしたら、遺族厚生年金は40万円くらいだね。遺族基礎年金と合わせると、140万円くらいだから、毎月12万円くらいは支給されるということだ。

 

相談者:それでも、子どもが18歳になると、老齢基礎年金がもらえなくなってしまいますから、奥様の生活が苦しくなりますよね。

 

専門家:いいところに気がついたね。その通りだ。奥様が自分の老齢基礎年金をもらえるようになるのは65歳だから、それまでの期間の収入は、老齢厚生年金だけになってしまう。そこで、中高齢寡婦加算という制度があるんだよ。

 

相談者:なるほど、それはいいですね! 金額はいくらですか?

 

専門家:中高齢寡婦加算は年58万円だね。妻が40歳以上で、65歳未満であって、生計を同じくしている子どもがいなければ、受け取ることができるんだ。ただし、遺族基礎年金よりも少なくなってしまうね。それでも子どもが独立した後の生活だから、奥様ひとりで何とか生活できるんじゃないかな。

 

 

相談者:それで奥さんが65歳になると老齢基礎年金がもらえるようになるんですね。金額はいくらでしょうか?

 

専門家:20歳から60歳までの保険料をすべて納めていると、満額の老齢基礎年金は77万円ちょっとだね。

子どもがいない場合の「遺族年金額」は?

相談者:子どもがいないこともありますよね。奥さんがひとりで残された場合は、どうなるんでしょうか?

 

専門家:夫が会社員の場合、子どもがいなくても遺族厚生年金をもらえることは、先ほど話したよね。しかし、子どもがいない場合には、遺族基礎年金がもらえないんだ。

 

相談者:そうすると、夫が自営業の場合は、遺族年金はゼロですか?

 

専門家:いや、遺族年金がゼロだとすると、夫が自分で支払い続けてきた国民年金保険料が掛け捨てになってしまって、かわいそうだよね。そこで、死亡一時金と寡婦年金の制度があるんだ。どちらか好きなほうを選択することになっているね。

 

相談者:それらはいくらもらえるんですか?

 

専門家:寡婦年金は、加入期間が10年以上ある夫が死亡し、障害年金をもらっておらず、夫婦の婚姻期間が10年以上ある妻が65歳になるまでもらえる年金だけど、夫の老齢基礎年金の4分の3だけもらえるんだ。

 

相談者:その計算だと、かなり少ない金額でしょうね。

 

専門家:死亡一時金は、加入期間が3年以上ある夫が死亡し、障害年金をもらっていない場合は、12万円から最大32万円もらえるんだ。

 

相談者:なるほど、自営業の奥さんの生活はとても厳しくなりますねー。

 

 

遺族基礎年金については、こちらの動画をチェック!

遺族厚生年金については、こちらの動画をチェック!

 

 

大貫 友久(おおぬき ともひさ)
税理士
吉岡マネジメント・グループ/税理士法人日本会計グループ 代表社員・理事長

 

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