(画像はイメージです/PIXTA)

父が兄妹に遺した財産は、6000万円の金融資産、1億円の自宅、2億円の貸しマンション。兄は、金融資産を2分割にしたうえ、自分は貸しマンション、妹は自宅を相続することを主張しますが、不公平さに納得できない妹と裁判に。調停の最中ですが、妹は遺産の金融資産を相続税の納税資金に充てたいと考えています。法的に可能なのでしょうか。高島総合法律事務所の代表弁護士、高島秀行氏が実例をもとに解説します。

遺産分割協議中の生活費等に充てるなら、利用価値あり

相続税の支払いという観点からすると、500万円でも不足しそうなのに、150万円では全然支払いに足りないという可能性が高いと思います。

 

したがって、法改正により新しく認められた制度ですが、相続税の支払いという観点からは、あまり使えない制度ということになります。

 

ただし、遺産分割協議中の生活費などの支払いに充てるには利用価値があるかもしれません。

 

「遺産分割前の預貯金の払戻制度」は相続税の支払いには役に立たない可能性が高いことがわかりましたが、法律は、相続法改正の際にもう1つ遺産分割協議成立前に預貯金を下ろせる制度を作りました。それが「遺産分割前の仮分割制度」といいます。

 

これは、相続税の支払いや相続人の介護費用や入院費用など多額の支払いが必要な場合に、今後の遺産分割に支障の無い範囲で、裁判所が仮に預貯金を分割することを認める制度です。

 

今後の遺産分割に支障の出ない範囲で認められるので、法定相続分であれば認められる可能性は高いと思います。

 

先ほどの「遺産分割前の預貯金の払戻制度」は、裁判所に申立をせずに直接銀行に請求することができましたが、「遺産分割前の仮分割制度」は、裁判所への申立をして、裁判所に認める決定を出してもらう必要があります。

 

花子さんの法定相続分は2分の1なので、2分の1は認められると思われます。

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払戻できるのは「預貯金のみ」、投資信託等は対象外

この遺産分割前に預貯金を払い戻してもらう遺産分割前の預貯金の払戻制度も、遺産分割前の仮分割制度も、法律には「預貯金」と書かれており、預貯金のみが対象となります。

 

一般の人からすれば、投資信託も預貯金のようなものですが、預貯金しか対象にはなりません。

 

したがって、投資信託も6分の1遺産分割前に払い戻しを受けることができるとする選択肢③は誤りです。

 

よって、仮処分決定を得れば預貯金の2分の1を下ろすことができるとする選択肢⑤が正解となります。

 

遺産が高額な場合、仮処分決定を得て預貯金の2分の1を下ろせたとしても、預貯金の2分の1だけでは相続税が支払えない場合もあります。

 

多額の財産をお持ちの方、あるいは相続する予定の方は、相続が発生した場合相続税がいくらになり、そのお金はどのように用意して支払うのか検討されておいたほうがいいと思います。


 

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

高島 秀行
高島総合法律事務所
代表弁護士

 

 

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