事業承継の相談相手は多岐にわたる
事業承継を進めるにあたり、家族や自社の役員・従業員には相談がしにくく、専門的な知識が必要なことから士業などの専門家に頼りたい場面が出てきます。具体的には、どういった相談相手が考えられるでしょうか。
まず思いつくのは、経営者仲間です。お互いが事業をけん引した経験があるので背景や感情をくみ取ったうえで相談に乗ってくれる可能性があります。一方、事業承継の経験者がいるとは限らず、的確なアドバイスを受けられないこともあるでしょう。人にもよりますが、他の経営者に口外する恐れもゼロではありません。
税理士は顧問契約を通じて中小企業との関わりがあり、決算支援などに伴い経営にも精通しています。相続税に関する助言や株価評価、相続・贈与に対する助言など、幅広いサポートを期待することができます。近年は事業承継支援を取り組む税理士事務所も増えています。
監査・会計の専門家として財務書類の監査証明業務など、財務に関する調査・相談に応じる公認会計士も、事業承継の支援が期待できる士業です。経営状況・課題の見える化や磨き上げ、非上場株式の評価・M&Aにおける売却価格の試算、経営者は個人保証の解除などの支援が受けられます。
ただし、事業承継のプロフェッショナルではないので、経営者に寄りそった支援をどれだけ受けられるかは未知の部分があります。逆に彼らにとっては、M&Aで新しい会社に吸収されると、顧問契約を解除される恐れから、利益相反になる懸念があります。
法律のプロフェッショナルである弁護士も事業承継の支援者です。中小企業や経営者の代理人として、金融機関や株主、従業員などのステークホルダーへの説明・交渉や調整を行います。
株主関係が複雑である場合や、会社債務・経営者保証などに関する金融機関との交渉・調整、M&Aを活用する際の法律面全般の検討と課題の洗い出し、スキーム全体の設計、各種書類の作成などのサポートが期待できるでしょう。顧問弁護士であれば会社の内情にも詳しいですから、よい相談相手になるかもしれません。
融資など会社の資金面をサポートする金融機関も有力な相談先です。経営者からすると「子どもに引き継ぎたい」「売却を検討している」と口にしたら、担当者が会社の将来性に不安を感じて、これまでの関係が壊れると思うようですが、決してそうではありません。近年は地域振興の観点から事業承継に取り組む金融機関が現れ始めています。
あくまでも資金面の付き合いなので、事業承継の相談相手としてイメージする経営者は少ないかもしれませんが、身近な存在であり財務状況を把握しているだけに、よい支援先になる可能性を秘めているのです。
これについては、別稿で詳しく解説します。
他にも、M&Aを検討するなら、相談からマッチング、売却実行までの一連のプロセスを請け負うM&A仲介会社は相談相手の選択肢になるかもしれません。商工会議所・商工会も中小企業の経営サポートを実施していて、最近は事業承継関係のセミナーなども開催しているようです。
あるいは、「事業引継ぎ支援センター」「中小企業再生支援協議会」「よろず支援拠点」「中小企業庁、経済産業局」といった公的機関も、事業承継をサポートする機能を担っていて、相談業務も行っています。
こうして挙げてみると、事業承継の相談相手は多岐にわたることがわかります。一人で悩まずに相談し、専門家の支援を仰ぎながら進めることで、円滑な事業承継が実現します。