大切なのは数字ではなくお客様の満足
■目指すは「うらずかな」の経営
足し算の経営をやめました。今は引き算の経営を心掛けています。
講演会などでお話しする際に、さまざまな事業を多角経営している経営者の方からたびたびいただく質問があります。
「リスク分散のためには多角経営が正しいと思ってきました。でも、どれもうまくいきません。どれに絞ればよいでしょうか?」
経営において数字ばかりに囚われると、足し算ばかりをしてしまいがちです。すると、経営はますます複雑になり、お客様の存在は遠いものとなっていきます。
もし、数字にこだわらなければ、複雑化して見えなくなったものを引き算する〝思い切り〞が生まれるでしょう。引き算を続け、よりシンプルに考えれば、本当に守りたいものが見えてくるはずです。
「売らんかな」という言葉は、何がなんでも売って儲けようという商売の考え方です。営利優先の商売と表現してもいいでしょう。
しかし、飯田屋では「うらずかな」でありたいと考えています。この言葉には、「売らずかな」「裏(うら)付(づ)かな」「裏ずかな」という三つの意味を込めています。
一つ目の「売らずかな」は文字どおり、なんでも簡単に売らないことです。
本当に求めているものであるかを見極め、最適な一点を売る商いであり、たとえ高額な商品であっても、合わないと思えば売らない勇気を持つ姿勢です。何よりも大切なのは、数字ではなくお客様の満足です。
二つ目の「裏付かな」は、裏付けがある商品しか売らないことです。
価値は比較からしか生まれません。たくさんの道具を使い比べているからこそ、何がどういいのかを提示できます。
「使いやすいおろし金です」ではなく、「△△が□□より、××できるおろし金です」と断言でき、「あなたにとっての最適はこれ!」と自信を持って言えるのは、230種類を比べた裏付けがあるからです。裏付けがないのは、責任がないのと一緒です。
最近、アマゾンで50種類の布巾を購入して、吸水性を使い比べてみました。洗ったばかりのお皿を10枚ほど拭くと、どれもびしょ濡れになってきます。
その中にたった1枚だけ、20枚拭いても吸水性を保ったままの布巾がありました。残りの49種類の中には「吸水性に優れた布巾です」とパッケージに書かれたものもありましたが、実際はそれほどでもないものばかりでした。
たしかに、わずかな比較では吸水性に優れていたかもしれません。しかし、50種類を比べてみると、まったく別の答えが出てくるものです。たとえ100円の道具でも、売る責任として裏付けによる自信を得て商売をしたいと考えます。
三つ目の「裏ずかな」は、裏表がない商売をすることです。
裏で売上やノルマを気にするのではなく、目の前のお客様に誠心誠意を込めた商売をすることです。数字でお客様を見てしまっては、本当に喜ばれるものが売れなくなります。
先日、テレビを見ていて残念に思うことがありました。テレビショッピングで成功しているタレントさんが「一日に○億円を売った」と、数字の自慢ばかりを話していたのです。
どれだけのお客様を喜ばせたかではなく、売った数字を誇ることにどれほどの意味があるのでしょうか。1万枚のフライパンを売るより、1枚のフライパンをどれだけ心を込めて販売したかということを誇りたいものです。
「売らんかな」の商売ではなく、どう喜んでもらえたか、どんな幸せを与えられたかを大切にした「うらずかな」の商いを飯田屋は続けていくつもりです。
飯田 結太
飯田屋 6代目店主