空売りは市場の流動性を向上させる正当な経済行為
「下降相場に入ったら、主力銘柄を空売りするだけ」というごくシンプルな戦略にもかかわらず、個人投資家の多くはなかなか空売りをすることができません。企業を応援するために、株は長期で保有することこそ正義と長らく信じてきただけに、売りから入る空売りになんとなく抵抗があるのでしょう。
確かに、空売りの主なプレイヤーがヘッジファンドであることから、空売りは玄人向けであるといったイメージや、相場の下落を助長する悪い行為といった見方がされることもあります。
しかし、本当に買いは「善」で、売りは「悪」なのでしょうか? 空売り自体は、市場の流動性を向上させる正当な経済行為として認められています。
たとえ空売りを禁止しても、企業業績や景気の先行きに対する不安材料があれば、現物株を持っている人たちの中には、損失覚悟で安値でも売却する人が出てきます。そうなれば、市場参加者の多くは買いから入っているのですから、空売りが禁止されても株価は下落に向かって当然なのです。
結局のところ、株式投資というのは買えば後から売る、先に売れば後で買い戻す、というように売買を行うことで利益が確定されます。株を売ることが悪であるなら、極端ではありますが、現物株を持っている人はみな一生保有している株を売ることができないという話になってしまいます。
「株と結婚するな」という投資の格言がありますが、どんなにその銘柄に愛着があっても株はあくまで投資であって預貯金ではありません。皆さんはリスクを取って株に投資しているのですから、暴落時に株と心中する必要はありません。大きな下落局面が訪れたら、現物取引なら保有している株を売ればよく、信用取引なら売りから入ればいいのです。
これまで度々繰り返されてきた株価の暴落時に、下落し続ける株を黙って見ていることしかできなかった人も、空売りに対する抵抗感さえ拭うことができれば、上昇相場で得られたものの比ではないほどの収益が得られることでしょう。
残念なことではありますが、日本の株式市場は上昇局面よりも下落局面のほうが長期化しているのが実態です。それゆえ、下降の勢いを収益に変えていくことをもっと前向きにとらえていただきたいと思います。
損切りの「5%ルール」を徹底して守る
空売りに悪のイメージが付きまとうもう一つの理由は、「損失は無限大」と言われることにあると思います。詳しくご説明しましょう。
株価300円、単元株数が1000株のA社に30万円投資したとします。仮にA社が倒産した場合、現物買いの人の損失は最大30万円です。これに対し、A社の株価が500円に値上がりした場合、信用売りをしていた人は、20万円の損失(評価損益は10万円)が発生します。
さらに、株価が700円に値上がりした場合、40万円の損失(評価損益はマイナス10万円)が発生します。このように株価が上昇していけば損失も上昇していくので、理論的には損失は無限大となります。
しかし、これはあくまで理論上の話です。実際には、低位株でもない限り、株価が右肩上がりで上昇する銘柄が現在の日本に存在するでしょうか? しかも、株式市場全体が下降トレンドに入った局面においてです。
そして何よりも重要なのは、上昇相場でも下降相場でも損切り5%ルールを徹底することです。いずれにしても逆指値注文によって損切りを確実に実行すれば、空売りの無限大とされる損失を限定することができます。損切りさえ実行できれば、必要以上に空売りを恐れる必要はないのです。
[図表]損切りと損失のイメージ