(※写真はイメージです/PIXTA)

現在の為替レートは1ドル120円程度で推移していますが、「実質的な為替レート」は、1ドル300円程度だった50年前と同じぐらいといわれています。この背景には、日本と諸外国それぞれのインフレ率が関係しているのです。経済評論家の塚崎公義氏が平易に解説します。

為替レートの考え方…「インフレ分だけ変化する」

為替レートの基本的な考え方は、日本と外国の物価水準が同じになることです。米国で1ドルのものが日本で100円ならば、1ドルは100円が「妥当だ」といえるでしょう。

 

もしも銀行で1ドルが1円だったら、日本人が円をドルに替えて米国に買い物に行くでしょうが、そのときのドル買い注文がドルの値段を押し上げるので、いつまでも1円でいるはずがなく、1ドルが100円になるまで値上がりを続けるはずです。

 

反対に、1ドルが1000円であれば米国人がドルを円に替えて日本に買い物に来るでしょうから、彼等のドル売り注文によってドルの値段は下がっていくはずです。

 

実際には、ぴったり一致するわけではありません。輸送のコスト等々がかかりますし、自動車は日本のほうが安いけれども牛肉は米国のほうが安い、といった品目別の違い等々もあるでしょうから。しかし、おおむね一致する水準の近辺で推移するはずだ、とはいえるでしょう。

 

したがって、米国がインフレで物価が2倍になり、日本の物価が一定で推移したのであれば、ドルの値段は半分になるはずなのです。

 

50年前と比べると、諸外国の物価上昇率と日本の物価上昇率の違いの分だけドル等が安くなっているというのが赤いグラフの示すところですから、「実質的な為替レートは50年前と同じだ」というわけですね。

 

前半25年間と後半25年間の違いは気になりますし、50年前に戻っただけなのに「円安だ」といわれる理由も気になりますが、別の機会に詳述することとしましょう。

 

★補論★実質実効為替レートは「輸出困難度指数」と呼ぶべきだ

前出のグラフの青い線は、「名目実効為替レート」と呼ばれるものです。日本の貿易相手国は米国だけではありませんから、米国以外の貿易相手国の為替レートの変化も考慮した指数を計算しているわけです。

 

具体的な計算は、貿易相手国としての重要度に応じてウエイトをつけて「加重平均」を行います。

 

指数なので、単位はありません。「1ドル100円」といった単位ではなく、「〇〇年を100とするといまは90」といった数字になるのです。

 

グラフの赤い線は、貿易相手国それぞれとの関係で「相手国の物価上昇率と、相手国との間の為替レートの変化率を用いて相手国との間の輸出が容易になったか困難になったか」を計算して、その結果を加重平均した値です。こちらは「実質実効為替レート」と呼ばれています。

 

たとえば、中国の物価が上昇したのに中国と日本の間の為替レートが変化しなければ、名目実効為替レートは変化しませんが、日本から中国への輸出が容易になるので、実質実効為替レートは下がるわけですね。

 

筆者は実質実効為替レートという名前が嫌いです(笑)。実効というのは米国以外の国のことも考えているという意味で、実質というのは物価上昇率格差のことも考えているという意味なのですが、為替レートという名前なので誤解を招きやすいですね。

 

筆者はこれを「輸出困難度指数」とでも呼ぶべきだと考えていますが、残念ながら採用される気配はなさそうです。

 

今回は以上です。なお、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。また、このシリーズはわかりやすさを最優先として書いていますので、細かい所について厳密にいえば不正確だ、という場合もあり得ます。ご理解いただければ幸いです。

 

筆者への取材、講演、原稿等のご相談は「幻冬舎ゴールドオンライン事務局」までお願いします。「幻冬舎ゴールドオンライン」トップページの下にある「お問い合わせ」からご連絡ください。

 

 

塚崎 公義
経済評論家

 

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