年間約4000~5000人がなる「脊髄損傷」…患者は「寝たきりのまま病院を転々せざるを得ない」日本医療の実情

年間約4000~5000人がなる「脊髄損傷」…患者は「寝たきりのまま病院を転々せざるを得ない」日本医療の実情
(※写真はイメージです/PIXTA)

「“脊髄を損傷したら、寝たきりの人生を送ることになる”という医師の宣告を鵜吞みにするのは大きな間違いである」。脊髄損傷の患者のリハビリに30年以上携わってきた柴田元医師は、自らの経験に基づき、脊髄損傷を受けても在宅生活に移行できる可能性は十分にあり、社会復帰を果たす希望もあると強調します。それではなぜ、専門的なリハビリを受けることなく病院を転々としたり、施設で寝たきりの余生を送る患者が多いのでしょうか? 日本医療の意外な実情を見ていきましょう。

「病院の機能分化」の実情

■病床の水平統合が進む都市部、垂直統合が進む地方

日本は人口に対して病床数が過剰といわれています。例えば2018年のデータによると、日本では人口1000人あたりの病床数は13床です(日本医師会「病床数の国際比較」)。ドイツはこの値が8.0床、アメリカは2.9床などとなっていますから、先進各国に比べるとかなり多く見えます。つまりそれだけ効率が悪く、コストがかかる医療行為を日本はしているのではないか、と考える人も多いと思います。しかし、だからといって日本全体、医療全体で過剰病床といわれればそうではありません。ここにはかなりの地域格差が見られます。

 

■都市部の実情:病床不足の中、急性期医療の提供体制を保つには…

大都市圏では人口10万人あたりのベッド数が実はかなり不足しています。しかも都市部は地代も人件費も高いため、診療報酬の単価の高い急性期医療でなければ、経営が成り立ちづらい事情があるのです。そこで急性期型に施設を特化しておきながら、急性期医療の必要がなくなった亜急性期、慢性期の患者にベッドを割り当てることは収益性を落とすことになります。

 

急性期医療を提供する体制を維持し続けるにはコストがかかります。一方、緊急度や難度の高くない診療だけで構わない亜急性期や慢性期の患者をケアすることで得られる報酬は、急性期の患者からの報酬よりも低く設定されているのです。

 

当然、急性期病院は「できるだけ急性期医療が必要な患者を集めて、回転させていきたい」と考えます。急性期を過ぎたら、できるだけ早期に別の医療機関に転院を勧めるというインセンティブが働くのです。

 

その結果、急性期病院とその他の医療機関、施設との間には横の連携が形成されることになります。

 

■地方の実情:積極的な患者受入れで病床数・収益力ともに維持したい

一方、多くの地方都市では地代も人件費もそれほどかけずに病院経営をすることが可能です。ただし、全国的な少子高齢化や東京などへの人口流出が進むなか、ベッド数は過剰供給の状態になってきました。そこで、政府による2016年以降の医療再編に基づき、地方では急性期病床においても削減計画が出されている地域が多くなっています。

 

ただ病院経営者の立場で考えると、一人でも多くの患者を受け入れる体制を保ち続けることは経営上非常に重要なことです。

 

そこで病院経営者は「ベッド数を削減されるくらいなら、急性期病床を亜急性期病床に転換させて、ベッド数を維持したほうがマシ」と考えます。また、急性期から亜急性期、そして維持期までのベッドを丸抱えすることで収益力を維持しようというインセンティブも働きます。

 

要は、急性期を脱した患者を自身の病院の亜急性期病床、維持期病床などに移すことで、その患者から引き続き診療報酬を得ようという考え方です。これを病院機能や地域医療の垂直統合といいます。

 

その結果、地方には大小の「保険・医療・福祉複合体」とでも呼べるような存在が複数誕生することになりました。患者はそれぞれ複合体のどれかに取り込まれ、そのなかで多くのサービスを受ける状態になるのです。

 

とはいえ、垂直統合にも利点はあります。急性期から維持期まで、患者の状態の推移に合わせて一つの組織がすべてのサービスを提供するため、患者からすれば任せておけば安心という点です。急性期を診てくれた医師にもアクセスしやすいので、患者や家族にとっては、頼もしいといえます。

 

ただ、どの急性期病院に運び込まれるかによって、医療機関によっては、その後の転院先まで決められてしまう恐れがあることが欠点です。運び込まれた病院や転院先が自分に合わない病院だった場合、他院へ移ることもままならない場合もあるかもしれません。

次ページ脊髄損傷患者の「入院期限」

※本連載は、柴田元氏の著書『交通事故、労働災害、転倒・転落……患者が知っておくべき脊髄損傷リハビリ』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

交通事故、労働災害、転倒・転落……患者が知っておくべき脊髄損傷リハビリ

交通事故、労働災害、転倒・転落……患者が知っておくべき脊髄損傷リハビリ

柴田 元

幻冬舎メディアコンサルティング

専門性の高いリハビリで 脊髄損傷後でも社会復帰は叶う。 急性期での「選択」が、社会復帰の成功と失敗の分かれ道。 専門医の選び方、リハビリ施設の活用法、公的支援制度の申請法…身体機能を回復し社会復帰するために…

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