年間約4000~5000人がなる「脊髄損傷」…患者は「寝たきりのまま病院を転々せざるを得ない」日本医療の実情

年間約4000~5000人がなる「脊髄損傷」…患者は「寝たきりのまま病院を転々せざるを得ない」日本医療の実情
(※写真はイメージです/PIXTA)

「“脊髄を損傷したら、寝たきりの人生を送ることになる”という医師の宣告を鵜吞みにするのは大きな間違いである」。脊髄損傷の患者のリハビリに30年以上携わってきた柴田元医師は、自らの経験に基づき、脊髄損傷を受けても在宅生活に移行できる可能性は十分にあり、社会復帰を果たす希望もあると強調します。それではなぜ、専門的なリハビリを受けることなく病院を転々としたり、施設で寝たきりの余生を送る患者が多いのでしょうか? 日本医療の意外な実情を見ていきましょう。

脊髄損傷患者の「入院期限」

■病院は収益を見て患者を転院させている!?

都市部と地方では、このようなかたちで病院の機能が分化していきました。ただ、ここにも大きな問題が生じます。

 

2022年度の政府方針では、急性期から維持期までの医療・介護サービス提供は地域連携パスと診療報酬体系の中で、効率的に行われなければならないとしています。そのために厚生労働省は制度を通してシステムを整備しているのです。

 

患者にはまず、高度急性期・急性期病院で集中的治療を施します。ここでは入院期間が短いほど診療報酬から得られる利益が高くなっています。診療報酬が同じ(包括払い)=同じ収益額なら、なるべくコストを抑えたほうが利益が大きくなります。医療資源が最も投下される高コストな現場であり、効率化が強く求められている病床といえます。

 

そこで(高度)急性期病院では、できるだけ早く次の段階の亜急性期施設に患者を転院(転棟)させます。(高度)急性期病院ののちに転院した病床で過ごせる期間は地域包括ケア病床なら60日まで、回復期病床なら、疾患により60~150日(高次脳機能障害があれば180日)となっています。

 

この期間中に在宅復帰がかなえばよいのですが、退院が難しい場合は病気や障害によって、医療保険下での長期療養か介護保険下での長期療養施設が選択されていきます。患者のなかには一度に複数の病気と障害を抱えている人もいるので、期間内に改善していくとは限りません。

 

そうすると病院側にとって治療のゴール地点は、「疾患から回復した」という患者の状態にフォーカスしたものではなくなります。診療報酬制度で定められた期限内は面倒を見るが、その期限は効率的に収益が得られるまでというスタンスになるのです。

 

このような背景により病院の病床には、経営の観点から、患者を回転させなければならないというプレッシャーが常に働いています。そのせいで、病院にとっては救命後の回復の見込みが薄いように見える脊髄損傷患者は、なんの進展もないまま病院を転々とさせられてしまう可能性が高いのです。

次ページ「リハビリ環境の整った病院」に転院できないのか?

※本連載は、柴田元氏の著書『交通事故、労働災害、転倒・転落……患者が知っておくべき脊髄損傷リハビリ』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

交通事故、労働災害、転倒・転落……患者が知っておくべき脊髄損傷リハビリ

交通事故、労働災害、転倒・転落……患者が知っておくべき脊髄損傷リハビリ

柴田 元

幻冬舎メディアコンサルティング

専門性の高いリハビリで 脊髄損傷後でも社会復帰は叶う。 急性期での「選択」が、社会復帰の成功と失敗の分かれ道。 専門医の選び方、リハビリ施設の活用法、公的支援制度の申請法…身体機能を回復し社会復帰するために…

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