株主配当5倍、従業員の給与は横ばいのまま
■資本家が国民のカネを吸い取ってきた
――そうなんですか……岸田さんは、政府がたくさんのおカネを使うということを考えていないから、私たちの所得が倍増するほど日本経済が活性化することになるとは思えない、でも、「良いこと」もいくつかおっしゃっているから、所得が増えていくチャンスもあるだろう、っていうことですね。ちなみに岸田さんが書かれているなかで藤井先生がお考えになる「正しいこと」っていうのは何なのでしょうか?
藤井 まずは次のページのグラフ(図)をご覧下さい。これは、日本国内の法人企業(資本金10億円以上)の「利益」(経常利益)と「給与」(決まって支給する給与)、それから「株主配当金」の平均値の推移を示しています。いずれも、1997年を100に基準化したものです。
これを見ると、私たちの給与は、この20年間、全く増えてないことがわかりますよね。
――ホントですね! ずーっと横ばいで全然増えてない……。
藤井 そうです。それなのに会社の「利益」は、増減しながらも、2.5倍くらいの水準に増えてきている。
――確かに。ということは……。
藤井 会社はどんどん儲けを増やしてきてるのに、それを社員の給料に全然回してなかったということです。このグラフは平均のグラフですから、社員を冷遇する会社だけというわけでなく、平均的な会社はみなそうしていた、ということです。
じゃあ、その儲けたおカネがどこに行ってるのかというと、このグラフから、「株主」に回されていたっていうことがハッキリとわかります。このグラフに記載のように、「株主配当」は、この20年で、5倍以上に膨れ上がっているんです。
【画像】日本人の給料は全然上がっていない!「給料30年間の推移」
――えーっ、それはひどい!
藤井 そうなんです。株主配当金っていうのは、株式会社の株を持っている「株主」に配当されるおカネです。そもそも株式会社っていうのは、株主におカネを出してもらって(出資してもらって)、そのおカネを元手にビジネスを展開して、利益が出たら最初におカネを出してもらっていた株主にその利益の一部を「配当」する、っていう仕組みになっています。で、株主は、その「配当金」が欲しいという動機で株を買うわけです。
一般にそんな株主は、「資本家」と呼ばれるたくさんおカネを持ったお金持ちの方々とか、投機をビジネスにしている金融機関とかです。だから配当金を受け取るのはおおよその場合、大金持ちの資本家・大企業のみなさんだという構図があるわけです。
で、利益はこの20年で2倍にしかなっていないのに、株主配当金だけは5倍以上になっているということは、日本の企業は儲かったおカネのうち、株主に回す分をどんどんどんどん増やしてきたということになっているわけです。
一方で、利益が2倍になっているのに給与を全く増やしてこなかったってことは、要するに、日本の企業は本来ならば私たちのような一般の労働者に給料として回してしかるべきおカネを、どんどん大金持ちの株主たちに回していったってことです。
――その配当金は本来、私たちがもらっていていいおカネ、っていうか、受け取るべきおカネなのに、企業が勝手に株主たちに回していた、ってことですよね! 大金持ちはますます大金持ちに、庶民はいよいよ貧しくなるばかりじゃないですか。企業は第一に、利益を実際に生み出している労働者を大事にするべきでしょう。ホント、腹の立つ話ですね……。
藤井 そうです。少々意地悪な解釈をするなら、大金持ちの資本家たちが、株式会社という仕組みを使って、この20年間、私たち一般の労働者の国民からカネを吸い上げ続けてきた、っていうことですね。
じゃあ、なぜ企業はそんなことをしてきたのかっていうと、株の価格が高いか低いか、っていうこと(一般にその企業の「時価総額」といわれたりします)で、その企業の「価値」を評価する傾向がどんどん強くなってきたからです。だから、各企業は自社の生き残りをかけて、必死になって株価を上げようとしてきたのです。
株価を上げるためには、できるだけたくさんの株を買ってもらわないといけない。
そして、株を買ってもらうためには、「買っていただけたら、こんだけたくさんの配当金を差し上げますよ」っていわないといけない││ということで、各企業は配当金をどんどん上げていったわけです。そうやって企業の間で「配当金の引き上げ競争」が起こって、あっという間に配当金は5倍以上になっちゃったのです。