狂犬病だけではない…身近な動物から感染するウイルス【東大医科学研究所感染症国際研究センター長・監修】

狂犬病だけではない…身近な動物から感染するウイルス【東大医科学研究所感染症国際研究センター長・監修】

致死率が非常に高い恐ろしいウイルスには、コウモリやイヌ、ネコといった身近な動物から感染するものもあります。日本では1957年以降国内の感染例がない狂犬病も、日本を含めたごく一部の国を除き、全世界で発症が見られるなど、十分な注意が必要です。※本記事は、川口寧氏監修の書籍『感染症時代の新教養 「ウイルス」入門』(実務教育出版)を抜粋し、再編集したものです。

狂犬病ウイルスは「宿主を操っている」とも

古くから知られる有名な人獣共通感染症が、狂犬病です。狂犬病ウイルスによって起こる狂犬病は、人間を含むすべての哺乳類(クジラやイルカなどの海棲哺乳類も)がかかり、発症すれば人も動物も3~5日でほぼ100%死亡します。狂犬病ウイルスに感染した動物(アジアではおもにイヌ)に噛まれ、唾液中に排出されるウイルスが傷口より体内に侵入することにより感染します。

 

狂犬病ウイルスはカプシドを持つRNAウイルスであり、電子顕微鏡で見ると円筒形(砲弾型)の特徴的な姿をしています。ウイルスは末梢神経の神経細胞の中で増殖しつつ、少しずつ中枢神経(脳)に向かって進みます。脳に到達すると脳内で爆発的に増殖し、神経を伝わって全身の組織へ広がり、初めて症状が現れます。

 

[図表]狂犬病ウイルス(模式図)

 

狂犬病を発症したイヌは、極度に興奮して攻撃的行動を示し(狂騒型)、後半身から前半身に麻痺が広がり、食物や水が飲み込めなくなります(麻痺型)。最終的には昏睡して死亡します。

 

人間が感染した場合、潜伏期間は1~3か月程度で、噛まれた部分の痛みやかゆみ、発熱、頭痛、全身のだるさ、食欲不振、精神不安などが見られます。続いて興奮や幻覚、恐水・恐風症状(水や風を怖がる)が現れ、最後に昏睡状態に陥って死に至ります。

 

以前は、日本でも野犬や飼い犬に噛まれて狂犬病になり、多くの人が亡くなっていました。しかし、飼い犬への予防接種が義務づけられたために、1957年以降、国内での感染はありません。ただし、海外でイヌに噛まれた人が帰国後に発症して死亡するケースはまれに発生しています。

 

一方、海外ではごく一部の国々を除いて、全世界で狂犬病が発生し、毎年約5万人が死亡していると推定されています。海外旅行では、動物(イヌ、ネコ、キツネ、アライグマ、スカンク、マングース、コウモリなど)に近づかないように注意が必要です。

 

動物に噛まれ、狂犬病ウイルスに感染した可能性がある場合には、発症を抑えるためにできるだけ早くワクチンを接種しなければなりません。ワクチンは複数回の接種が必要です。

 

狂犬病ウイルスは宿主を操っているという見方があります。狂犬病のイヌが凶暴になって他の動物を噛むのは、ウイルスだらけの唾液を通して新たな宿主に移るため、水を怖がるのは唾液を水で洗い流されるのを防ぐためというのです。昆虫に感染するウイルスの中には、昆虫を巧みに操って自分に有利な行動をさせるものが確かにあります。

 

なお、狂犬病ウイルスを含む「マイナス一本鎖RNAウイルス(モノネガウイルス目)」による感染症は、高い致死率を示すものが含まれます。前述のエボラウイルスや、マールブルグウイルス(エボラ出血熱に似たマールブルグ病の原因ウイルス。ケニアやコンゴなどで発生)、ニパウイルス(発熱、頭痛、筋肉痛などのインフルエンザのような症状で始まり、意識障害やけいれんなどを伴い、脳炎を発症する。マレーシアやバングラデシュで発生)などが、このグループのウイルスです。

 

 

川口 寧

東京大学医科学研究所 感染症国際研究センター長

 

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※本連載は川口寧氏監修の書籍『感染症時代の新教養「ウイルス」入門』(実務教育出版)を抜粋し、再編集したものです。

感染症時代の新教養 「ウイルス」入門

感染症時代の新教養 「ウイルス」入門

川口 寧 監修

実務教育出版

本書は、「ウイルス」を病気を起こすという悪玉的側面だけでなく、ウイルス感染症が引き起こす社会現象、社会変化が引き起こすウイルス感染症、感染することによって宿主に益をもたらす善玉ウイルス、調教ウイルスによる病気の…

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