将棋の対局はインターネット中継により、ファンたちが手軽にみられる時代になった。しかしその一方、中継だけでは伝わらないこともある。カメラに映らない光景、対局室のマイクが拾わない言葉…。彼らが胸に秘める闘志や信念は「文章にしないと、後に残らない」。将棋界を10年以上取材してきた朝日新聞の村瀬信也記者が、勝負師たちの姿を追う。今回は、「豊島将之」。

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藤井に完敗し、三冠から2年で無冠に

タイトルを巡る勝負の一方で、豊島はここ数年、ある棋士との対決でも注目を集めていた。史上最年少の14歳2カ月でプロ入りした藤井聡太だ。

 

藤井はデビュー間もない頃からトップ棋士とも好勝負を演じてきたが、豊島には公式戦でなかなか勝てなかった。2017年の初対戦から豊島が6連勝。タイトル挑戦を目指す当時の藤井にとって、壁と言える存在だった。

 

だが、当の豊島は、藤井の目覚ましい成長を肌で感じていた。今も印象に残る言葉がある。豊島が2019年に名人を獲得した時のことだ。対局の翌朝の合同インタビューで、12歳下の藤井について問われた豊島は、こう語った。

 

「彼が25歳の時に自分は37歳。自分が相当うまくこれからの時間を過ごしていかないと、彼の全盛期と戦うのは難しいかなと思っている」

 

2人が大舞台で相まみえるのは、その2年後のことだった。

 

2021年。豊島は第62期王位戦七番勝負で挑戦を決めた。相手は、前年にタイトルを獲得した藤井だった。両者がタイトル戦で顔を合わせるのは、これが初めて。並行して進行した第6期叡王戦五番勝負では藤井が豊島への挑戦権を獲得し、約3カ月にわたる「十二番勝負」が繰り広げられることになった。

 

1月に第14回朝日杯将棋オープン戦で初黒星を喫したものの、豊島にとって藤井は依然として相性のいい相手である。好勝負が予想されたが、ふたを開けてみると際立つのは藤井の強さだった。

 

王位戦第1局は豊島が勝ったものの、その後は藤井が4連勝してタイトルを防衛。叡王戦は2勝2敗のフルセットにもつれ込んだが、最終第5局を制した藤井がタイトルを奪取した。豊島が保持するタイトルは竜王のみとなった。

 

そして10月。豊島に藤井が挑戦する第34期竜王戦七番勝負が開幕した。豊島にとってまさに正念場と言えるシリーズだったが、結果はタイトル戦で初の4連敗。屈辱のストレート負けを喫した豊島は、三冠から2年で無冠となった。

 

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    本記事は『将棋記者が迫る 棋士の勝負哲学』(幻冬舎)を抜粋・再編集したものです。

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