相続税の「試算」は意味がない?
平成27年1月に相続増税が実施されたことで相続税に関心を持つ人も増えました。「一度相続税を試算してみましょう」という広告もよく見かけます。中には営業マンがタブレット端末を持参して、相続税を試算してくれるところもあります。
金融資産をはじめ、保有している不動産などを入力していくと、将来かかるであろう相続税の概算額がわかるというものです。相続税対策を考える前に、相続税がどのくらいかかるのかを計算することは、一見、大事なことのように思えますが、概算で相続税を計算するのは意味がないばかりか、大きな害さえ及ぼしかねません。
土地の相続税評価額の計算方法は前述した通りで、市街地の場合、路線価×面積で計算するのが基本です。ここから、土地の形や道路の状況など、その土地が抱える個別の事情によって、評価を減額していくことになります。
その土地にどのような減額が適用できるのかは、現地に行ってみなければわかりませんし、法務局や自治体の調査も必要です。しかし、パソコンやタブレット端末で試算する概算の相続税額には、このあたりの事情はまったく加味されません。はじきだされる相続税額は驚くほど高くなっているはずです。
中には、銀行やハウスメーカーでは心配だから、一度、税理士に相続税額をシミュレーションしてもらおうと考える人もいます。残念ながら、この場合も正しい評価が行われているとはいえません。ごく大ざっぱにいえば、2、3割は評価額が高くなっていると言ってもいいでしょう。
そもそも相続税に詳しくない税理士のほうが圧倒的に多いのですから、その税理士が正しく土地を評価するのは不可能です。もともと正しく評価できない税理士がさらに〝概算〞で計算すれば、正しい税額よりもはるかに高い税額になってしまうのです。
費用がかかる「正しい土地評価」が結果的に得をする!?
相続税のシミュレーションを税理士に依頼するときに、あなたならどの程度の費用を支払う用意があるでしょうか。どんなに高く見積もっても、20万から30万円程度ではないかと思います。以前、私が相続税のシミュレーションを依頼されたケースでは、費用が150万円かかった案件もあります。
保有している不動産の数や状況にもよりますが、正しい土地の評価を行い、相続税を計算するには、その程度の費用が必要になるのです。その費用を惜しんで、概算の相続税計算で相続税対策を検討したらどうなるでしょうか。
本来よりも高額な相続税額を基準として相続税対策を考えるのですから、準備する納税資金も多くなります。納税資金を準備するために土地を売却しなければならないケースも少なくありませんが、相続税額を多く見積もってしまったために、その対策のためにアパートを1棟、余計に建築をすることになったり、売却する土地を一つ余計に予定しなくてはならなくなります。これは遺言にも影響します。
遺産分割でもめないように遺言を書く人も少しずつ増えていますが、そもそもの相続税の試算が間違っていれば、遺言の内容が変わってしまいます。たとえば子どもが3人いる場合で、土地が4ヵ所あり、納税後に残る有効な土地が2ヵ所となるという試算が出たとしましょう。3人に均等に相続させたいと考えた遺言者は、悩んだ結果、2つの土地を売って残金で分けるように遺言を書くかもしれません。
正しい評価で正しい相続税額が算出できれば、売る土地が一つで済み、残る土地が3ヵ所とはじめからわかったかもしれません。悩む必要はなかったのです。前述の私が依頼を受けた案件は、相続税の試算に150万円の費用がかかりましたが、それにより、相続税が2000万円下がる対策を講じることができました。
また、すでに土地の評価額は正しく計算しておけば、将来相続が発生した時には、評価のための費用を改めてかける必要はなく、将来の相続税申告費用の前払いと考えると、生前の150万円の費用は決して高額にはなりません。