(※写真はイメージです/PIXTA)

アメリカの研究チームにより、食生活を少し変えるだけで、健康寿命が伸び、環境に優しい生活につながるということが明らかになりました。各食品が、私たちの健康や環境にどれほど負担をかけるのか。初めて具体的に数値化されたデータを見ていきましょう。アメリカ在住の大西睦子医師が解説します。

各食品が健康・地球環境に与える「具体的な影響」

■ホットドッグ1個で「失われる健康寿命」は36分間

MBGによると、研究チームは当初から、研究成果を人々にすぐに理解してもらえるような形で発表したいと考えていたそうです。そこで、カロリーや飽和脂肪の含有量だけでなく、ある食品が「健康的な生活」を何分間ほど足しうるのか、あるいは減らしうるのかを推定しました。

 

共著者の栄養士ビクター・フルゴニIII博士らが開発した「健康栄養指標(HENI)」は、「世界疾病負担率(GBD)」という大規模な疫学調査に基づいています。GBDは、世界中の7,000人以上の研究者が協力して作り出した、世界規模の総合的な調査とデータベースです。HENIでは、GBDから得られた15種類の食事リスク因子と疾病負荷の推定値を、国民健康・栄養調査の「What We Eat in America」データベースに基づいて、米国で人気の食品の栄養プロファイルと組み合わせました。プラスのスコアをもつ食品は健康寿命が増え、マイナスのスコアをもつ食品は健康寿命に悪影響を及ぼします。

 

たとえば、米国で加工肉を食べると、1gあたり平均0.45分間の健康寿命が失われることがわかりました。この数字に、研究者らが開発した食品プロファイルを掛け合わせます。ホットドッグの場合、ホットドッグサンドに含まれる61gの加工肉は、この加工肉の量だけで、27分間の健康寿命が失われることになります。そして、ホットドッグに含まれるナトリウムやトランス脂肪酸などの他の危険因子を考慮すると、健康寿命がさらに10分間減りますが、健康な多価不飽和脂肪酸で、健康寿命が1分間増えます。最終的に、ホットドッグを1個食べるごとに、健康的な生活が36分間も失われることになります。

 

研究結果を基に筆者作成
[図表1]参考:各食品と健康寿命の増減① 研究結果を基に筆者作成

 

 研究結果を基に筆者作成
[図表2]参考:各食品と健康寿命の増減② 研究結果を基に筆者作成

 

研究結果を基に筆者作成
[図表3]参考:各食品と健康寿命の増減③ 研究結果を基に筆者作成

 

■ペパロニピザ1枚なら健康寿命は約5分間短縮、二酸化炭素を0.55kg排出

さらに博士らのチームは、5,853の食品や料理について、このような数値の計算を繰り返し、健康栄養指数(Health Nutritional Index)を作成しました。そこから、18の環境要因(オゾン層破壊、輸送中に放出される粒子状物質、水の使用など)を考慮して、各食品の短期的な地球温暖化への影響を考え出しました。その結果、167種類の食品の健康寿命は36分間の損失から33分間の増加まで、短期的な地球温暖化への影響は0.0005~5.7kg -CO2eq(CO2eq:二酸化炭素換算値。地球温暖化係数〔GWP〕に基づき、様々な温室効果ガスの排出量を比較するために用いられる尺度。他のガスの量を同じ地球温暖化係数を持つ二酸化炭素の等量に換算したもの)に及びます。

 

たとえば、チェダーチーズ1つは、健康寿命を1.4分間短縮し、0.3kg -CO2eqを排出することがわかりました。ペパロニピザ1枚は健康寿命を約5分間短縮し、0.55kg-CO2eqを排出。りんご1個は、健康寿命を13分間延ばし、0.02kg-CO2eqを排出します。

 

研究者らは、最後に、米国で最も人気のある167の食品について調査結果を発表し、健康と環境の組み合わせに応じて、それぞれの食品を緑、黄、赤の3色に色分けしました(※4)。信号機のように、緑色の食品は健康に有益な効果があり、環境への影響も少ないため、食事で増やすべきで、赤色の食品は減らすべきであるとしました。

 

緑色:食生活で増やすことが推奨される食品で、栄養的にも環境的にも有益な食品を示しており、ナッツ類、果物、一部の魚介類、全粒穀物、野菜、豆類などが含まれます。

 

赤色:栄養または環境に大きな影響を及ぼし、食事量を減らすか避けるべき食品が含まれています。栄養面での影響は主に加工肉が、気候やその他の環境面での影響は牛肉や豚肉、ラム肉、加工肉など。

 

黄色:栄養的にやや有害か、環境への影響が中程度で、緑色と赤色の基準を満たさない中間にある食品です。ほとんどの鶏肉、乳製品(牛乳、ヨーグルト)、卵を使った食品、調理済み穀物(米など)、および温室で生産された野菜は、黄色に該当します。

 

ほとんどの場合、体に良い食品は環境にも良い傾向にあります。ただし、温室栽培の野菜や、養殖の魚など、栄養価の高い食品でも、地球温暖化への影響が意外に高いものもありました。つまり、栄養的に有益な食品が必ずしも最も低い環境影響をもたらすとは限らず、その逆もまた然りであるということ。

 

スティリアヌ博士は同大学のニュースに「これまでの研究では、植物性食品か動物性食品かという議論に終始することが多かった」「植物性食品は一般的に優れていることが分かっていますが、植物性食品と動物性食品のどちらにもかなりのバリエーションがあります」と言います。

 

また、1日の摂取カロリーの10%を牛肉や加工肉から、全粒穀物、果物、野菜、ナッツ、豆類、厳選した魚介類に置き換えるだけで、米国の消費者の食事の二酸化炭素排出量を平均3分の1減らし、1日に健康寿命を48分間延ばせることも明らかになりました。これは、このような限られた食生活の変化で、健康や環境の大幅な改善となります。

 

MBGによると、博士らの研究は、私たちが一口食べるごとに健康寿命を何分間得たか、失ったかにこだわるように仕向けたわけではありません。むしろは、この研究をきっかけに、健康や地球のために、身近にある赤い食品をほんの少し、緑の食品に置き換えてほしいと願っています。「食生活の小さな変化で、健康や環境に大きな利益」。さっそく、今日の食事からほんの少し、食品を置き換えてみませんか?

 

※4 https://news.umich.edu/small-changes-in-diet-could-help-you-live-healthier-more-sustainably/

 

大西 睦子

内科医師、医学博士

星槎グループ医療・教育未来創生研究所 ボストン支部 研究員

 

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