企業の「資産形成の現場」で起こっていること
そこには日本の常識は世界の非常識といえる実態があります。というのもこれまで述べてきましたように、ほとんどの企業の経営者は、投資について学ぶことが無かったことから、金融リテラシーがありません。その結果、資産形成の現場で、次のようなことが起こったのです(図表3)。
●目的の欠如
資産形成の目的の着眼点が本来企業全体の価値向上という高いところを見るべきだったところ、経営者、アドバイザーともにその意識が欠如していたことから目線も下がってしまいました。その結果、目的が一つ一つの個別の資産の価値向上にとどまったため、各資産を販売する販売会社の販売ブローカー(営業マン)と向き合うこととなっていました。
●視野の遍向
経営者は、資産形成に対する視野全体にポートフォリオの発想を持ち込み、経営者の知識や経験の不足する部分についてはポートフォリオ全体を俯瞰した観点からのアドバイスをできるアドバイザーと向き合うべきところ、実際は、個別の資産の価値向上についての画一的なアドバイスしか持ち合わせない個別資産ごとのブローカーの台頭を許してしまいました。
経営者つながりや銀行の紹介で販売ブローカーの話を聞いては、企業全体のポートフォリオを考えない各資産の価値向上に偏った方策をとってきました。
●受動的な経営者のスタンス
自社の現状を一番理解しているのは経営者ですので、本来は経営者自身が能動的にあるべき資産形成の進め方を模索するべきです。
しかしブローカーたちは、販売会社から自らの商品を大量に販売することについてのインセンティブを与えられ、日夜セールストークを磨いて販売現場に臨むため、いかに経営者であっても抗弁することすらできず、受け身のまま契約させられていきました。
経営者に金融リテラシーがなかったために、販売ブローカーの販売スキームを信じてしまったことが大きな要因です。
●アドバイザーの身勝手なふるまい
金融機関や保険会社、不動産会社のブローカーたちは、自社の投資商品の知識しか持ち合わせない、資産形成のプロでも何でもない立場であるにもかかわらず、いかにもアドバイザー然と立ち振る舞いました。
彼らは一方的な自己都合によって、画一的な販売スキームを中小企業にとってのアドバイスと称して自社の売りたい商品を代わる代わる勧め続けました。またその売りたい商品も自らの収益最大化のためだけに選んだ商品だったため、売り手すら中身のよくわからない新興国などに投資する手数料の高い商品を顧客に売りつけ、顧客もよくわからないまま買ってしまい、損失を出して「二度と投資なんかするものか」と怒りを募らせることになりました。
本来は資産形成の全体を俯瞰できるアドバイザーに、資産ポートフォリオ構築に向けた課題解決型のアドバイスを受けるべきですが、そのようなアドバイザーが現れることはありませんでした。
●学ぶ価値のないアドバイス
ブローカーが自称「アドバイス」と呼んだ、個別資産の範囲に限定された一方的な自社の商品説明は到底学びと呼べるようなシロモノではありませんでした。
また、リスクの説明についても、中小企業のためを思って、幅広く説明しすぎると誰も契約してくれなくなるため、各々の資産の属する業法(金融商品取引法、保険業法、宅建業法など)の範囲に限定されました。これは資産ポートフォリオの視点やあらゆるリスクやリターンとのバランスについて、アドバイザーに学びながら資産形成を図るという、本来のあるべき姿からは程遠いものでした。
●おまかせの資産形成
向き合い方が受け身でしたので、実践の段階でもブローカーにおまかせになってしまうことは避けられませんでした。本来は自ら主体性を持ちつつ、アドバイザーの意見も取り入れながら実践することが求められます。投資はいつの時代も自己責任です。