店内で増殖するPOPの奇蹟の数々
黄色い紙に、手書きの黒い文字、赤線でアンダーラインを引いた飯田屋独特のPOPには、商品への思いが込められています。限られた小さなスペースに、商品の特長、どんな人が買ったら幸せになれるのか、その道具が実際に使用されている写真など、伝えたい情報をできる限り簡潔にまとめて書きます。
たくさんの思いがあふれて書ききれませんが、それがお客様との会話のきっかけにもなります。この小さなPOPは、飯田屋が接客と同じくらい大切にしているものです。最近では、飯田屋に料理道具の買物ではなく、商品に貼られたPOPを見るのを楽しみにご来店される方もどんどん増えています。
おもしろいもので、接客されたくないお客様もいらっしゃいます。自由に商品が見たいけれど、自分の好きなタイミングで商品情報は欲しいとお考えです。僕も客としてはゆっくりと自由に見るのが好きで、販売員から話しかけられるとピューっと逃げてしまいます。
自分がされて嫌なことは自店でも行いません。そこでPOPが活躍してくれます。
接客よりはお伝えできる情報量は少なくなりますが、お客様の好きなタイミングで商品情報をお伝えできます。POPに書いてある以上の情報をお聞きになりたい場合には、商品知識豊富な従業員が接客させていただきます。
このようにPOPは飯田屋にとって、一枚一枚が店員のようなものなのです。ならば人間味のあるほうがいいはずです。
POPの人間味とは、手書き文字が醸す“人間くささ”です。以前はパソコン出力した文字でつくっていたときもありましたが、手書きに代えると売上は3倍近くになりました。さらに、お客様に声をかけていただく回数が約2倍にも増えたのです。
道具に込められた想いがより伝わったのでしょう。以来、どんなに文字に自信がなくとも、POPは必ず手書きとなりました。ルールは、黄色い紙に、黒文字で書き、文字の下に赤線でアンダーラインを引くことだけです。
担当者は特に設けておらず、誰がどの商品にPOPを付けてもかまいません。大抵は自分が仕入れた思い入れのあるものに書きます。
飯田屋の忘年会では毎年、特に記憶に残り、売上に貢献したPOPをみんなで表彰する「POPオブ・ザ・イヤー」が行われます。それに2年連続で優勝したのが藪本達也です。彼の書くPOPは、いつもたいへん個性的です。
あるとき、商品が隠れてしまうほど大きな用紙に、びっしりと小さな文字で、熱い想いが書き綴られていました。商品を際立たせるためのPOPではなく、POPが主役と見間違えるほどです。