国主導の認知症対策が進むが…「隠れ認知症」の脅威
認知症は進行性の疾患であり、発症すれば一生付き合っていく必要があります。認知症のなかでも多くを占めるアルツハイマー病について、進行を遅らせる薬の開発は進められていますが、根治を目指せる治療法は現代医学をもってしても確立されていません。そのこともあって、国レベルで深刻な問題といっていいでしょう。
そのため、医療の現場、介護の現場など、それぞれ分断された個別の対応ではなく、進行状態に合わせてその時々の容態に最適な対応が受けられる環境が必要です。
新オレンジプランでは、発症の予防から人生の最終段階まで、医療・介護だけでなく、地域や関係機関との有機的な連携を図り、適切なサービスを提供できる循環型の仕組みの構築を目指しています。具体的には、
●早期診断および早期対応の体制整備
(早い段階から支援するための「認知症初期集中支援チーム」や地域の医療や介護を連携させる「認知症地域支援推進員」を全国に設置)
●周辺症状(BPSD)や身体合併症などへの対応
●生活を支える介護
●人生の最終段階を支える医療と介護の連携
●認知症ケアパスの積極活用
以上のような項目が挙げられます。しかし、こうした国主導の認知症対策が打ち出される一方で、現状、その対策から漏れてしまいかねない人が国内に大勢いる事実には、なかなか目が向けられません。
その人たちというのは、認知症が強く疑われるにもかかわらず、医療機関とつながらない状態の人です。すると受診が遅れ、認知症と診断されるまでに時間がかかるため、症状が進行してしまうのです。
この状態の人たちこそ、私が特に力を入れて述べたい「隠れ認知症」の人です。認知症にもかかわらず未受診の状態ということです。
メディアでも昨今、この言葉が使われることがありますが、多くの場合、MCIなどのいわゆる認知症予備軍を隠れ認知症と定義する傾向が多いと思われます。
この数はなかなか行政や医学会等の統計には現れてきません。2015年の新オレンジプラン発表の際には、認知症予備軍は400万人との推計が出されています。ここにはMCIの人も含まれていますので、それを除いた「隠れ」認知症患者はおよそ250万人程度と推測されます。隠れ認知症が将来の重大な脅威となることは、このままでは避けられそうにありません。