取引の記録は「発生主義」で
会計を記録するとき、確実に理解していただきたいルールが、「発生主義」というものです。ここを間違うと、会計の数値が大きく変わり、経営に十分に役立てることができません。
「発生主義」とは、取引が発生(成立)した時点で、売上や費用を認識するという考え方です。
このように説明しただけでは難しいと思いますので、入出金のタイミングで売上や費用を認識する「現金主義」と比べながら理解を進めていきます。
例えば、
5月6日 100万円の商品を納品し、6月末支払期限で請求した
6月末 代金の支払いがなかった
7月5日 代金100万円が支払われた
という取引があったとします。発生主義であれば、先ほどのケースでは販売をした5月6日に売上を計上することになります。5月6日の時点で商品の販売が行われ、売上高が「発生」しているという考え方です。
一方、現金主義にした場合、現金が入ってきた7月5日に売上を計上することになります。5月6日の時点では現金のやり取りをしていないので、取引は記録されません。
このように、現金主義の場合、販売活動を行った時期と、売上高を計上するタイミングがずれてしまいます。
現金主義によると、極端な話、3年前に販売した商品の代金も、今年販売した商品の代金も、今日入金されれば、「今日の売上高」になってしまいます。
会計を活用するときには「比較」を行うことが重要です。前年の数値と比較したり、部門ごと、商品ごとに比較したりすることで、問題点を把握します。
もし、発生主義で売上を記録していれば、「その月に行った営業活動がうまくいったか」ということを前年の実績と比較して調べることができます。ところが、現金主義だと、仮にその月に成約がなくとも、たまたま支払いが行われたら売上高になるので、営業活動がうまくいっているのか曖昧になってしまいます。
「それでも発生主義で会計をつけるのは難しそう」「現金主義のほうが分かりやすい」と思われるかもしれませんが、発生主義も記録のコツを覚えれば簡単です。
中小企業の取引の多くは、取引のあとに代金決済が行われる「掛取引」ですから、まずは掛取引の処理を覚えておきましょう。販売をした時点で「売掛金」を、仕入れをした時点で「買掛金」という勘定科目を使って、取引を記録します。その後、現金の授受が行われたら、計上していた売掛金や買掛金を取り崩す形になります。
このほか、減価償却を用いて費用を計上すれば、買ったときだけ急に費用が増え、利益が減るようなことを避けられます。
そして、毎年の減価償却費と比べて、どれくらいの売上高を生んでいるのかを調べることで、購入した固定資産を有効活用できているのかを調べることができます。
小形 剛央
税理士法人小形会計事務所 所長
株式会社サウンドパートナーズ 代表
税理士・公認会計士