貧富格差と経済成長
最後に、貧富格差と経済成長の関係を見てみよう。両者の関係を確認しておくことは“新しい資本主義”を模索する日本にとって重要と考えられるからだ。
貧富格差の代表指標としては図表4、図表5、図表6と同じトップ10%が所有する富のシェアを取り、経済成長の代表指標としては過去10年(2011~2020年)平均の実質GDP成長率を取って、経済規模の大きいG20諸国の状況をマトリックスにして見ると(図表7)、貧富格差と経済成長の関係は、正比例でも反比例でもないようだ。
一方、経済発展の初期段階では成長率が高くなり、発展段階が進むにつれて成長率が低下していくという傾向があることが知られている。
そこで、経済発展段階の代表指標として一人当たりGDPを採用し、それを基準に経済発展段階を5つの分位にわけて、それぞれの平均成長率を見ると(図表8)、発展段階が進むにつれて成長率が低下していく様子が確認できる。
そして、図表7で採用した過去10年平均の実質GDP成長率から、図表8に示した当該国が属する経済発展段階の平均成長率を差し引いた数値を「超過成長率」と呼ぶこととする。
この超過成長率を経済成長の代表指標に取り、貧富格差の代表指標としては図表4、図表5、図表6、図表7と同様にトップ10%が所有する富のシェアを取って、G20諸国のマトリックスを作成したのが図表9である。
これを見ると、貧富格差と超過成長率との関係は“逆スマイルカーブ”を描いており、貧富格差が大きい国では超過成長率がマイナスになることが多いのに加えて、貧富格差が小さい国でも超過成長率がマイナスになることが多く、その中間に位置する国の超過成長率が最も高くなる傾向が見られる。
貧富の格差が小さ過ぎれば人々は努力しても報われないと感じ、貧富の格差が大き過ぎれば人々の間に不公平感が高まって社会の分断を招くからだと筆者は考えている。経済成長を極大化することが必ずしも国民の総幸福を高めるとは限らないとはいえ、分配と成長のバランスを考える上では興味深い事実である。
三尾 幸吉郎
ニッセイ基礎研究所
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