(写真はイメージです/PIXTA)

本記事では、世界不平等研究所が発表した世界不平等レポート2022をもとに、ニッセイ基礎研究所の三尾幸吉郎氏が、世界の貧富格差の実態を解説します。※本記事は、ニッセイ基礎研究所のイギリスの雇用統計に関するレポートを転載したものです。

所得格差・水準、腐敗汚職と貧富格差

[図表4]所得格差と貧富格差
[図表4]所得格差と貧富格差

 

ここで貧富格差と所得格差の関係を見ておこう。貧富の格差が生じる背景には所得の格差があると考えられるからだ。

 

貧富格差の代表指標としてトップ10%が所有する富のシェアを取り、所得格差の代表指標としてトップ10%が得ている所得のシェアを取って、経済規模が大きいG20諸国の状況をマトリックスにして見ると(図表4)、貧富格差と所得格差が正比例の関係にあることが分かる。

 

但し、フランスとイタリアでは所得格差が同水準なのに貧富格差はフランスの方が大きく、米国と日本では所得格差が同水準なのに貧富格差は米国の方が大きく、メキシコとインドでは所得格差が同水準なのに貧富格差はメキシコの方が大きいなどの違いが生じている。分配の在り方に対する国民の意識や政策スタンスの違いを反映しているのだろう。

 

[図表5]一人当たりGDPと貧富格差
[図表5]一人当たりGDPと貧富格差

 

次に、貧富格差と所得水準の関係を見てみよう。「衣食足りて礼節を知る」と言われるように所得水準が高くなれば貧しい人を救う余裕が生じ、分配などを通じて貧富格差を縮めようとする力が働くと考えられるからだ。

 

貧富格差の代表指標としては図表4と同じトップ10%が所有する富のシェアを取り、所得水準の代表指標としては一人当たりGDPを取って、同様のマトリックスを作成して見ると(図表5)、貧富格差と所得水準には緩やかな反比例の関係が認められる。

 

しかし、一人当たりGDPが1万ドル以下の新興国を見ると、メキシコとアルゼンチンでは所得水準が同程度なのに貧富格差はメキシコの方が圧倒的に大きいなどバラツキが目立ち、貧富格差に関するスタンスは国によって大きく異なるようだ。また、米国の所得水準は中国の6倍前後に達しているのに、両国の貧富格差は同程度であるなど、傾向ラインから大きく乖離した例外国も散見される。

 

[図表6]腐敗汚職と貧富格差
[図表6]腐敗汚職と貧富格差

 

続いて、貧富格差と腐敗汚職の関係を見てみよう。貧富の格差が生じる原因のひとつに腐敗汚職の蔓延が挙げられるからだ。

 

貧富格差の代表指標としては図表4、図表5と同じトップ10%が所有する富のシェアを取り、腐敗汚職の代表指標としてはトランスペアレンシー・インターナショナルが公表している腐敗認識指数(Corruption Perceptions Index)を取って、同様のマトリックスを作成して見ると(図表6)、貧富格差と腐敗汚職には緩やかな正比例の関係が認められる。

 

しかし、南アフリカとアルゼンチンでは腐敗汚職指数が同水準なのに貧富格差は南アフリカの方が圧倒的に大きかったり、ドイツは腐敗汚職がG20諸国の中で最も少ない国なのに貧富格差は腐敗汚職の評価が低いインドネシアと同程度だったりしており、腐敗汚職の蔓延が貧富格差を広げるひとつの要因だとは言えても、それだけで貧富格差を説明するのは難しそうだ。

 

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本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2022年1月21日に公開したレポートを転載したものです。

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