留学するなら最低「1000万円前後」は必要
<③留学>
留学を目標としている研修医はかなり多いと実感しています。やはり世界最先端の医療を間近で経験したいということでしょう。医師の留学にはおもに「研究留学」と「臨床留学」があります。
「研究留学」は、海外の大学院に進学して医療を研究するもので、留学先はアメリカとヨーロッパが中心になっているようです。
留学費用は準備に200万円前後、現地の生活費で年間360万円(1ヵ月30万円)程度かかるでしょう。2年間留学すれば合計1000万円必要です。
「臨床留学」は、現地の病院に勤務して実際に患者の治療に携わりながらスキルアップを目指すものです。留学先はアメリカ、ヨーロッパのほか、症例数の多い中国も人気のようです。この留学では、その国の医師免許を取得しなければならないうえに、病院ではカンファレンスに参加するので高い語学力が必須となります。
そのため、「研究留学」より難易度が高いといえるでしょう。また、病院に勤務するといっても給与は現地でぎりぎり生活できるレベルか、場合によっては無給のケースもあるそうです。したがって、アメリカやヨーロッパに数年留学することを想定すれば、やはり事前に1000万円前後の用意が必要でしょう。
どちらの留学をするにしても、結婚して子どもができると貯蓄が難しくなるので、早めの準備が得策です。
<④転職>
医師としての経験を活かして他業種へ転職するケースは、決して珍しくありません。
例えば医療コンサルタント。医師をしていると、医療コンサルタントと接点をもつ機会もあるはずです。その仕事ぶりを見て、「自分はそちらのほうが向いているのではないか」と感じ、医療コンサルタントに転職したドクターがいるという話を聞いたことがあります。
医療コンサルタントには医師免許がなくてもなれますが、医師の経験があったほうがより成功率が高いのは間違いないでしょう。その業務内容としては「クリニック開業支援」「採用支援」「スタッフ研修」「クリニック運営支援」「システム導入支援」などがあります。
転職先としては専門のコンサルティング会社が考えられますが、個人で独立して行う方法も考えられます。後者で成功すれば医師の収入を大きく上回ることも夢ではありません。
また、不妊治療の増加に伴い「胚培養士」という職業も注目を集め始めています。胚培養士の仕事は、一般的な不妊治療で効果がなかった夫婦の卵子と精子を体外で受精させ、その受精卵を母体に移植するというものです。これを生殖補助医療(ART)と呼びます。
この医療は公的保険外となるので最低でも数十万円かかります。昨今は晩婚化などによって不妊治療が増加しており、2015年に日本で出生した子どもの20人に1人はARTで誕生しています(日本産科婦人科学会「2015年ARTデータブック」)。胚培養士の仕事は、もともと医師が行っていましたが、医師免許は必要ありません(胚培養士の試験に合格する必要はあります)。
晩婚化は止まる気配がないので、ARTの需要は今後も伸びていくでしょう。現在の胚培養士でも年収2000万円を超える人がいるそうなので、仕事内容だけでなく、収入面でも魅力ある職業ではないでしょうか。
とはいえ、どのような転職でも最初から医師と同等の収入を得ることは難しいので、事前にある程度の貯蓄は必要です。
<⑤起業>
医師の仕事をしていると、患者の偏った知識や医師の立場では解決できない問題に困惑することもあるかもしれません。そういったことを解決するために起業するという方法もあります。
例えば前出のメドピアの創業者も医師で、同社の運営するサイトは臨床の決め手が見つかるとして医師の3人に1人が参加しているといわれています。
ほかにも医師が起業した実績は、医療業界専門の人材派遣会社や健康診断サービス、化粧品メーカーなど多岐にわたりますが、最近目立っているのはやはりICT(Information and Communication Technology〈情報通信技術〉)を活用したサービスです。フェイクニュースがまかり通るインターネットのなかで医師の経験と知識を活かして正確な情報を発信する。
世界中の医師がつながりスキルアップを図るサイトを構築する。医療従事者がより効率的に業務を行えるシステムを開発する。できることは無限にあるはずです。
キャリアプランを実現するには「お金の知識」が不可欠
このような起業も含めて多くの夢の実現には、いずれもお金がかかります。皆さんは夢の実現のために「いつまでに」「いくら必要か」を調べたことがあるでしょうか?
また、夢の実現のためだけでなく、将来の収入減や老後に備えて資産を形成しておくことも必要でしょう。「そんなことをしている先輩医師を見たことがない」という人もいるかもしれませんが、メドピアの調査によると1割強の医師が医療行為以外、つまり副業で収入を得ています。具体的には不動産経営や執筆、講演などが多いようです。
日本にはお金に興味をもつことを「意地汚い」と見なす風潮があります。しかし、実際には誰しもお金に興味をもっており、お金の知識がない人は必ずいつか損をします。特に収入が多い皆さんはその傾向が顕著です。ですから金融リテラシーを身につけることが必要不可欠なのです。
大山 一也
株式会社トライブ 代表取締役