【関連記事】孤独死した兄のマンション、転がり込んだ弟も孤独死…相続登記の放置が招いた「解決困難な問題」
シンガポール在住の夫婦、横浜のマンションを売りたい
相談内容
私の夫はアメリカ国籍です。夫は世界各国に支店をもつ金融機関に勤務しており、かつて日本に赴任した際、横浜市にマンションを購入しました。その後、アメリカ本土やシンガポールに転勤となったことから、横浜市のマンションは賃貸に出していました。
現在、夫婦でシンガポールに居住しています。夫もある程度の年齢になったので、横浜市のマンションを売却したいと考えています。手続きをするにあたり、どんな注意点があるのでしょうか。
日本の不動産登記法は特殊、住民票がないと手続きが…
回 答
まず、日本における不動産登記の前提から説明します。
日本の不動産登記法においては「住所」と「氏名」で人物の同一性を検討しています。例をあげるなら、「横浜市在住のA山B男さん」と「東京都在住のA山B男さん」は別人であるという考え方です。
そのため司法書士は、登記簿上の住所と現住所との一致に相当な気を使います。
この考え方は、日本人にとって当たり前なのですが、実は世界的にみるとかなりイレギュラーだといえます。住民票の概念や制度がが浸透しているのは、日本とアジアのごく一部の国だけだからです。したがって、欧米系のお客様にこの話をしても、あまり納得してもらえません。
また、印鑑証明書の制度はこの住民票の登録制度と紐づいているので、不動産の売買には切っても切れない関係です。
実際に印鑑証明書を取得するのは、みなさんの本籍地の市区町村ではなく、「居住地」の市区町村になります。
そこで問題になるのが外国籍の方です。
通常、日本人の場合なら、住民票や戸籍の附票で住所のつながりがつきます。しかし、海外に居住されている方(日本国籍の人も含む)は、住所の概念がなく、住所の繋がりがつきません。
この点の整合性をつけるのが、大変な作業になってきます。
日本でも、平成24年7月9日以降、外国籍の方で中長期の在留者の方にも住民票が発行されるようになりました。
総務省HP:外国人住民に係る住基台帳制度|住民票 (soumu.go.jp)
つまり、これらの外国籍の方で、中長期の在留者の方は印鑑証明書も発行されます。何らかの印鑑を登録をすれば…ではあるのですが。
それにより、外国籍の方による日本の不動産の購入は、ひと昔前にくらべて大変に容易になりました。
折しも不動産価格の上昇や、諸外国に比べると割安な面もあり、大変に多くの方が日本の不動産を購入され、筆者の事務所でも手続きを行っています。
しかし、問題をはらむのは、日本の不動産を所有したまま海外に転居してしまうケースです。
昨今は保存期間が伸びたものの、これまで住民票除票の保存期間は「5年」で、5年を経過すると破棄されています。また多くの自治体では、破棄証明書などの発行も取扱っていません。
しかし、日本国で登記された不動産を売るためには「住所」を一致させ、また、印鑑証明書に代わるものをそろえなければなりません。
日本国籍者なら住民票1枚ですむ手続きも、証明できる書面がないため、大ごとになってしまいます。
印鑑証明書を添付することができない外国籍の方のが登記義務者であるときは、印鑑証明書に代わり、外国籍の方の署名した委任状の署名について、本人のものに間違いない旨の当該外国官憲(本国【=国籍保持国】の官公署、在日公館など)または所属国駐在の日本大使館等の証明に係る署名証明書の添付が必要でとなります。
この場合、印鑑証明書とは違い、署名証明書については作成の期限の制限はありません。
また、住所の証明についても同様に証明を受けなければなりません。
正確かつ、年月日まで1日単位で証明を受けなければならないでしょう。
よって、相談者様の場合は、「在シンガポール」の「アメリカ大使館」に行って、これらの証明書を入手する必要があります。
近藤 崇
司法書士法人近藤事務所 代表司法書士
2025年2月8日(土)開催!1日限りのリアルイベント
「THE GOLD ONLINE フェス 2025 @東京国際フォーラム」
来場登録受付中>>
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】