前回は、国内外で保有する「外貨預金」から得る収益への課税について説明をしました。今回は、国内外で保有する「上場外国株式」への課税について見ていきます。

上場外国株式の配当は現地国でも課税が発生

前回に引き続き、海外に保有する資産として一般的な課税の仕組みを具体的に解説していきます。

 

2.外国株式

 

外国株式を購入する場合、基本的に未上場株式の購入は考えられないでしょう。そこで、以下では上場株式投資の課税に絞って解説します。

 

(1)現地国の課税

上場外国株式の配当は現地国でも課税が生じます。その課税方法は国によって異なりますが、一般的には源泉徴収の方法がとられています。

 

例えば、アメリカ法人からの配当金を日本の居住者が受け取る場合、日米租税条約ではアメリカ側は10%の源泉徴収となっています。上場外国株式を譲渡した場合の課税は現地国での税法によります。非居住者の株式の譲渡に対する各国の税法はまちまちで、譲渡所得に対して課税しない国、あるいは譲渡所得の一部またはすべてに対して課税する国があります。

 

また、国際慣習上、国内法(ここでは税法)に対して租税条約が優先適用されるため、国内法と課税関係が異なる場合があります。例えば、日本の居住者がアメリカで現地法人の株式を売買した場合、日米租税条約では原則としてアメリカでは課税されません。

日本で確定申告が必要となる上場外国法人からの配当

(2)日本の課税

上場外国株式の購入は、以下のように、①国内の証券会社を通じて行う場合と、②直接、現地の証券会社を通じて行う場合で日本の確定申告や税金に違いがあります。

 

①国内の証券会社から購入する

 

●保有時

上場外国株式は保有時に運用益として配当が生じます。国内の証券会社を通じて上場外国株式を取得する場合、証券会社が保護預かりをしますので、配当はその証券会社を通じて受け取ることになります。その配当に対しては、20.315%(所得税及び復興税15.315%、住民税5%)の税率で源泉徴収されます。

 

なお、その配当について現地国で税金が源泉徴収されている場合は、その源泉徴収後の金額に対して20.315%で源泉徴収されます。具体的には、図表のように配当総額が100(為替換算は考慮しない)に対して、現地国の税金が10%源泉徴収されている場合、国内ではその現地国での源泉徴収後の90に対し10.147%の9(1円未満切り捨て)を源泉徴収しますので、源泉徴収後の手取り額は81(100-10-9)になります。

 

【図表 国内の証券会社を通じた上場外国株式の配当金の源泉徴収】

 

上場外国株式の配当に対する国内での課税については、右記の源泉徴収のみで確定申告を不要とする方法、申告分離課税で確定申告を行い外国税額控除の適用を受ける方法、総合課税で確定申告を行い外国税額控除の適用を受ける方法のいずれかを選択できます。

 

2013年12月31日までのこれら選択の判断基準は、外国で源泉税が10%差し引かれているとの前提であれば、年間所得が195万円を超える人は源泉徴収のみで確定申告不要とする方法が、年間所得が195万円以下の人は総合課税による確定申告が、外国税額控除を受ける人と上場株式の譲渡損失(3年間の繰越損失含む)を活用する人は申告分離による確定申告が、一般的には有利となります。確定申告時には、これら3通りについて納税額をシミュレーションする必要があります。

 

●元本売却時

国内の証券会社を通じて上場外国株式を譲渡する場合の日本の税金の取り扱いは、国内の上場株式と同様に、譲渡益に対しては申告分離課税の対象としては20.315%(所得税及び復興税15.315%、住民税5%)の税率で課税されます。

 

一方、上場外国株式の譲渡損は同じ年の他の株式の譲渡益と相殺し、相殺できなかった金額は、先に述べた上場株式等の配当所得について申告分離課税を選択した場合のみ、その配当所得の金額から控除することができます。控除し切れなかった譲渡損は、確定申告により翌年以降3年間繰り越すことができます。

 

なお、譲渡損益の計算において、取得費の為替換算は取得日のレートで行うので、為替差損益は自動的に譲渡所得の計算に含まれています。従って、為替差損益を雑所得として別計算する必要はありません。

 

②現地の証券会社から購入する

 

●保有時

国内の証券会社を通じることなく、現地の上場外国法人から直接支払いを受ける配当については、国内で所得税が源泉徴収できないため申告不要制度は適用できません。従って、所得税も住民税もすべて確定申告が必要です。

 

確定申告には、「①国内の証券会社から購入する」で説明したように、申告分離課税で確定申告を行い外国税額控除の適用を受ける方法と総合課税で確定申告を行い外国税額控除の適用を受ける方法のいずれかを選択できます。株式の譲渡損を活用する場合と年間所得が多額の場合は申告分離による確定申告が、それ以外の場合は総合課税による確定申告が一般的には有利となります。

 

なお、現地の上場外国法人から直接支払いを受ける配当について申告分離課税の適用を選択するには、その適用を受ける旨の記載のある確定申告書の提出をしなければなりません。その選択を記載せずに確定申告書を提出した後に収入漏れがあり、修正申告や更正の請求を行う場合は、原則どおり総合課税の適用を受けることになります。

 

高額所得者については最高税率50.84%(所得税及び復興税40.84%、住民税10%)が適用され(なお、2015年以降の最高税率は55.945%)、申告分離の場合の20.315%をはるかに超えた追加納税が発生しますので、確定申告において申告分離課税を確実に選択しておかなければなりません。

 

●元本売却時

国内の証券会社を通じることなく、現地の証券会社に直接依頼した上場外国株式の譲渡益に対しては、申告分離課税により20.315%(所得税及び復興税15.315%、住民税5%)の税率により課税されます。

本連載は、2014年9月18日刊行の書籍『海外資産の相続』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

海外資産の相続

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永峰潤・三島浩光

幻冬舎メディアコンサルティング

金融商品や不動産など、海外資産の相続は、手続きが面倒なため、家族の誰も欲しがらないお荷物になってしまうことが多い。ただでさえ複雑な日本の相続税に、国や地域によって異なる税制が絡んでくるため、その処理にも煩わされ…

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