賃貸収入、譲渡所得は不動産所在地国で課税される
今回は、海外で所有する不動産への課税について見ていきます。
5.海外不動産
海外に不動産を所有する際、その物件を賃貸にする場合は、賃貸収入に対する課税と譲渡に対する課税を検討する必要があります。保有して自己使用するのみならば、譲渡に対する課税だけとなります。また、海外で不動産を取得した時点において、日本で何らかの課税が行われることはありません(個人間において低額あるいは無償で譲り受ける場合は贈与税の問題が生じます)。
(1)不動産所在地国の課税
不動産の賃貸収入から生じる所得も譲渡による所得も不動産所在地国で課税されます。課税方法はその国の税法によります。例えば、日本居住者がアメリカに不動産投資をした場合、不動産所得については家賃収入から賃貸関連費用と減価償却費(居住用建物の耐用年数は27.5年で定額法です)を控除した金額が、他の所得と合わせた総合課税(税率は10〜35%まであり毎年変更されます)になります。
また日本居住者がアメリカにある賃貸用の不動産を譲渡した場合、アメリカでは譲渡損益は所有期間1年以下が短期に、1年超が長期に区分され、短期譲渡益は総合課税され、長期譲渡益は総合課税の譲渡益とキャピタル・ゲイン課税(税率25%)とに区分し課税されます。
賃貸収入、売却益にかかる日本の税金とは?
(2)日本の課税
●保有時
海外不動産を賃貸する場合、運用益である賃貸収入から生じる所得に対して課税されます。保有して自己使用するだけの場合は、不動産所得の計算は必要ありません。基本的には、日本の税法に基づき、収入金額から必要経費を控除して計算します。不動産所得に対する日本での課税は総合課税のため、不動産所得に対して累進税率(所得税及び復興税、住民税合計で15.105%〜50.84%、なお、平成25〈2013〉年度税制改正で最高税率が55.945%)で課税されることになります。
必要経費の中でも金額の大きい減価償却費は、日本の減価償却制度に基づき定率法もしくは定額法で、耐用年数、残存価額等を当てはめて計算します。中古資産の場合は日本の中古資産の耐用年数を用います。不動産所在地国の税務申告時に用いた現地の減価償却費の計算は、日本の税金計算上は使用できないので注意してください。収入及び必要経費の為替換算は、実務上は年中における不動産所有期間中の平均相場を使用し計算します。
不動産所得、事業所得、山林所得、総合課税の譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、その損失の金額を他の各種所得(給与所得、不動産所得や事業所得等)の金額から控除して通算することができます。
なお、不動産の土地部分を借入金で取得している場合は、不動産所得の損失については制限が設けられています。土地の借入金に対応する支払利息に相当する金額は、損益通算の対象となる損失から除かれますので注意が必要です。不動産所在地国で不動産所得に対して所得税に相当する税金を支払った場合には、日本での確定申告で外国税額控除の適用が受けられます。
●物件売却時
外国に所在する不動産を売却する場合は、土地建物等の譲渡所得として課税されます。譲渡所得は、譲渡収入金額から取得費及び譲渡費用を控除して計算します。譲渡所得に対する税金は他の所得と区分し分離課税により計算しますが、土地建物等の所有期間により5年以下の所有の場合(短期譲渡所得)と5年超所有の場合(長期譲渡所得)で、以下のようにそれぞれ税率が異なります。
「短期譲渡所得」譲渡所得×20.315%(所得税及び復興税15.315%、住民税5%)
「長期譲渡所得」譲渡所得×39.63%(所得税及び復興税30.63%、住民税9%)
(*所有期間は譲渡した日の年の1月1日時点で計算します)
外貨建ての譲渡所得の計算は、譲渡収入は収入すべき日で為替換算し、取得費は取得の日、譲渡費用はその支出日で為替換算します。取得日と譲渡日の為替レートが異なっていても為替差損益は譲渡所得の計算に含まれますので、別計算する必要はありません。
また、土地建物等の譲渡損失は他の所得(給与所得、不動産所得や事業所得等)から控除すること、つまり損益通算することはできません。不動産所在地国で不動産の譲渡所得に対して所得税に相当する税金を支払った場合には、日本での確定申告で外国税額控除の適用が受けられます。