(※写真はイメージです/PIXTA)

人生100年時代。NPO法人「老いの工学研究所」理事長の川口雅裕氏は、書籍『年寄りは集まって住め』のなかで、「健康寿命」の知られざる真実を明かしています。

歳を重ねるにつれ、身体的には衰えていくが…

歳を重ねるにつれ、身体的には衰えていきます。しかし、近年の高齢者の身体的な若返りは目を見張るものがあります。

 

健康状態・生活機能・死亡の予知因子とされている通常歩行速度を、1992年と2002年で比較した「日本人高齢者における身体機能の縦断的・横断的変化に関する研究」において、2002年の高齢者は1992年の高齢者よりも身体機能が10歳程度若返っていることが示されています。

 

それ以降においても、スポーツ庁が毎年実施している「新体力テスト」をみると、65~79歳までの高齢者の「握力」「上体起こし」「長座体前屈」「開眼片足立ち」「10m障害物歩行」「6分間歩行」の合計点は、男女ともに右肩上がりで上昇しています。これらを総合すれば、現在の75歳は30年ほど前の60歳くらいに相当する身体能力を有していてもおかしくありません。

「結晶性知能」は20歳以降も上昇していく

とはいえ、身体的な衰えが進むことが避けられないわけですが、同じように知能についても衰えていくかというと、そうではありません。

 

知能には大きく分けて、「流動性知能」と「結晶性知能」があります。流動性知能とは計算などの処理スピードや単純な記憶力などのことで、新しい環境に適応するための情報を獲得・処理していく知能。結晶性知能とは言語能力や理解力、洞察力など、経験や学習から獲得していく知能のことをいいます。

 

流動性知能は20歳代前半にピークを迎えたのち低下の一途を辿りますが、結晶性知能は20歳以降も上昇し、高齢になっても維持され、上昇していくこともあります。

 

歳をとると、単純な計算問題やまる覚えでは若い人たちにまったく歯が立ちません。それは東京大学の先生たちだって同じです。流動性知能が衰えていくからです。しかし、結晶性知能は発達し続けますから、物事の捉え方が深く広くなり、感性も豊かになり、語彙も増えていきます。だから、高齢の人たちの表現したものには見るべきものがたくさんあるのです。

 

私は、新聞の俳句や短歌の投稿欄を楽しみに見ていますが、いつもその感性や表現力にはうならされます。俳句や短歌に限らず、何か創作しておられる方なら、若い頃より表現力も鑑賞力もレベルが上がったと実感しておられる方は多いでしょう。

 

ビジネスでも、年の功を存分に発揮しておられる年配者がたくさんいます。それは人や物事や自然を見る目、この先の将来を想像したり描いたりする力など、結晶性知能が発達し続けている証左なのです。

 

さらに言えば、人生を豊かにするのは明らかに結晶性知能のほうです。そしてそれは、コンピュータに取って替わられることがない、人間らしい能力と言えるでしょう。

 

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川口 雅裕


NPO法人「老いの工学研究所」理事長。 1964年生。京都大学教育学部卒。 株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)で、組織人事および広報を担当。 退社後、組織人事コンサルタントを経て、2010年より高齢社会に関する研究活動を開始。約1万6千人に上る会員を持つ「老いの工学研究所」でアンケート調査や、インタビューなどのフィールドワークを実施。高齢期の暮らしに関する講演やセミナー講師のほか、様々なメディアで連載・寄稿を行っている。 著書に、「だから社員が育たない」(労働調査会)、「速習!看護管理者のためのフレームワーク思考53」(メディカ出版)、「実践!看護フレームワーク思考 BASIC20」(メディカ出版)、「顧客満足はなぜ実現しないのか」(JDC出版)、「なりたい老人になろう~65歳からの楽しい年のとり方」(Kindle版)がある。

本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『年寄りは集まって住め』(幻冬舎MC)より一部を抜粋したものです。最新の法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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