「レスターの奇跡」のオッズは5001倍
スポーツ・ベッティングが盛んなのがイギリスです。元は競馬のレース予想から始まり、一九六一年にブックメーカーに関する法律が整備されました。イギリス人が一般にスポーツで賭ける金額は、1か月に2000円ほどと言われており、日常的に家庭の中で「ちょっとうちのチームに賭けておくか」といったふうに、気軽な楽しみとなっています。
イギリスで伝説的な大穴となったのが、2016年に起きたサッカーのプレミアリーグ優勝予想です。イギリス最弱と言われたチームが、並みいる強豪クラブを相手に大健闘して、ついに優勝してしまったのです。優勝チームはイギリス中部をホームとするスモールクラブ、レスター・シティで、2016年の出来事は「レスターの奇跡」と呼ばれ、ホームのレスターは街を挙げて熱狂しました。何しろ、レスターは常にプレミアリーグの残留争いにいたクラブだったのです。
このときのオッズは、なんと5001倍。1000円賭けたら500万円です。「ちょっとうちのチームに……」で2000円賭けていたら1000万円です。だからといって、読者の皆さんに一攫千金を勧めているのではなく、スポーツ・ベッティングには現代だからこその社会的な意義や経済への貢献もあるのです。
現在、ブックメーカーのサービス対象は、スポーツの試合以外にも広がっています。アメリカ大統領選挙の結果予想や、イギリス総選挙の議席数といった分野もあります。ブックメーカーが提供するサービスで自由に競争をすることで、より楽しい賭け対象を考えているのです。
たとえば、アメリカ大統領選挙の結果予想だけでなく、「新しい大統領が最初に外遊する国はどこか?」という予想となると、まるっきり政治分析の世界です。色々な賭けを考えて、たくさんのサービスを提示し、色々な人が参加することで産業が拡大・活性化します。
2020年10月、メディア事業を手掛ける株式会社サイバーエージェントが、日本でスポーツ・ベッティングを解禁した場合の国内市場規模を試算し、発表しました。それによると、日本国内は最大7兆円規模の市場になると推計されています。
2020年に始まった新型コロナウイルス感染症は、人の流れや経済活動を政府によって規制する手法で感染拡大を抑制しようとしました。人々が一か所に集まる大きなイベントには政府によって色々な制限が設けられ、スポーツ観戦も規制対象となりました。これまでは、スタジアムに大勢の人を入れ、観戦者はみんなで応援して一体感ともども楽しんできました。
そして、イベントを実施する側はチケット販売や会場でのグッズ販売で開催資金を回収してきました。人が集まるので、広告主を入れて広告費を得たりもしました。そうした従来のビジネスモデルが危機的状況となったのです。
ところが、インターネットの普及によって、直接会場へ足を運ばなくてもオンラインで観戦できる環境が発達したことで、少し状況は変わってきています。スポーツ・ベッティングをしながら、SNSで友達とつながりながら、オンラインを通じてスポーツ観戦に熱狂し、情報や分析を交換して楽しむことができるのです。
観客動員数が減少して経営が苦しいチームでも、スポーツ・ベッティングを通じた売上げの一部がチーム経営の財源となれば、チームも選手のために従来通りお金をかけることもできますし、より良いトレーニング環境を用意することや海外から強い選手を連れてきてプレーさせることもできます。
日本でレベルの高いスポーツ事業ができるということは、日本の選手も世界で通用する水準に育てることができるのです。コロナ禍のようなパンデミック発生時にもオンラインからの収益は事業を存続させることにつながります。