体調不良でも病院で「異常なし」と言われてしまうワケ
■体調不良を感じても、ホメオスタシスが維持されるうちは「異常なし」
ここで重要なことは、酵素がいくら十分にあっても、ビタミンやミネラルが不足すると身体の化学反応は正常に起こらないということです。その結果、身体のホメオスタシスの維持が困難になり、最終的にはいろいろな病気の発症につながるのです。
このことを猿山のサルとバナナに例えて説明していきましょう。ある猿山に100匹のサルがいるとします。これを酵素の例えだと考えてください。この酵素が正常に機能するためには補酵素や補因子であるビタミンやミネラルが必要です。このビタミンやミネラルをバナナだと考えてください。
私たちの身体が正常に機能するためには、猿山のサルに満遍なくバナナが行き渡る必要があります。ボスや一部の猿だけにバナナが渡ったのでは他のサルたちのバナナが足りなくなってしまいます。従来の栄養学では、欠乏症が起こらない程度の最低必要量のビタミン、ミネラルを補うだけで十分であると考えます。つまりこれは、ボスや一部の猿にだけバナナを与えればいいという考え方に等しいのです。
では、次にバナナが80本しかない場合を考えてみましょう。この場合は猿山のサルの大半にバナナが渡ります。ひょっとしたら知恵を働かせて、1本のバナナを分けて、全部に行き渡るようにするかもしれません。すると、猿山全体に行き渡るほどバナナがあるわけでもないのに、表面上は特に支障がないように見えます。本当は必要な十分量がなくても、化学反応の中でそれぞれ工面して、できるだけ体全体に支障のないように調節するわけです。これも「ホメオスタシス」の働きと言えます。この段階では、病院に行って検診を受けても「異常なし」と診断されるでしょう。
ところが、さらにバナナ欠乏が進んで、50本のバナナしかない状態としましょう。すると猿山のあちらこちらでバナナの取り合いが起こります。そしてバナナを取ることができなくて、衰弱したり、死亡したりする猿が出てくるかもしれません。この時点で、体調不良を感じて病院を受診すれば異常が見つかる可能性はあります。しかしこの状態でさえまだ、検査上は何も異常は見つからない場合もあります。それほど私たちに備わっている「ホメオスタシス」の機能は強いといえるのです。
■「必要推定量のビタミン、ミネラル」だけでは健康を保つのに不十分
最先端の医学で検査をして何も異常が発見されなくても、身体は不調を感じている。そういう患者さんは多いのではないでしょうか。病院では恐らく「原因は分からないのでしばらく様子を見ましょう」とか「この薬を飲んでちょっと様子を見てください」と言われ、症状を取るための薬を処方されるでしょう。しかしこのとき、すでに水面下では身体のバランスが大きく崩れ始めている可能性があるのです。
そして、いよいよ、バナナの数が30本になったときに、ようやく検査の数値に異常が見られ、はっきりと病気として表に現れてくるというわけです。氷山の例えでいうと、水面下で起こっていた異常が進んで、いよいよ水面上の氷山にも異常が見つかるようになった状態です。
日本の厚生労働省の基準で、最低限これだけのビタミンやミネラルを摂りましょうというのは、ちょうどこのバナナ30本の状態を意味していると言っていいでしょう。身体の化学反応が正常に働くために十分な量ではないのです。
言うまでもないのですが、このバナナの数は例えとして用いているだけで、実際の割合を表しているわけではありません。理解していただきたいのは、バナナの数、すなわち身体の中にあるビタミンやミネラルなどの栄養素が十分量なくてもホメオスタシスが働くことで、身体はある程度までは対応して異常は表に出てこないということです。
分子栄養学では、猿山のサルすべてにきちんとバナナが行き渡るように十分量のバナナを補うことを考えます。そうすることによって氷山の水面下にひそんでいる機能異常を補正し、ホメオスタシスをきっちり機能させようという考え方です。
今回は分子栄養学が標準医療ではカバーしきれない身体の不調を改善するのに有効という話をしました。次回は分子栄養学から発展した「機能性医学」という学問について説明し、分子栄養学と比べて何が違うのかを話していきたいと思います。
小西 康弘
医療法人全人会 小西統合医療内科 院長
総合内科専門医、医学博士
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