※写真はイメージです/PIXTA

議論が交わされるとき、そこでは必ず感情のやりとりも行われています。理論で負けそうになったとき「相手をやっつけてやろう」という感情が働くことで、わざわざ相手の言葉を曲解し、それを論拠にありえない理論を展開して攻撃してくる人がいるのは、そのためです。ベストセラー作家で、劇作家・演出家としても活動する竹内一郎氏が、そんな人間心理と弊害について解説します。

奇跡の出現は「決して珍しくない」といい切れるワケ

上述した「ワラ人形論法」は、他人の言葉に無理な解釈をつけて議論の足を引っ張ろうという意識的な行動だが、逆に、単なる偶然に遭遇することにより、自分のなかに「ある心理的作用」が引き起こされることがある。

 

たまにSNSなどで、雲の形がキリンの顔にそっくりだとか、コーヒーに落としたクリームの形が人の顔にそっくりだとか、そんな写真に出くわすことがあるだろう。これは「パレイドリア」と呼ばれる現象である。長い人生を生きていれば、いろいろな偶然に遭遇するものだ。

 

時計を見たら10時10分だったとする。次に見たときは11時11分だった。偶然にしてもできすぎだなと思ったりする。だから私たちは、そこに意味を感じ取ろうとすることがある。点と点を意味ある形につないでストーリーを作り、ストーリーに特別な意味があると解釈をし始める。これは「アポフェニア」と呼ばれる心理的特性である。

 

しかし、それはあくまで偶然なのだから、偶然として受け止めるべきである。偶然を運命に昇華してしまうと、フィクションとしては面白いが、現実では困ったことが起こる。例えば「神」が生まれることさえあるのだ。

 

ケンブリッジ大学の数学者J・E・リトルウッドが、1986年に「奇跡の発生率」についての研究成果を発表している。

 

まずリトルウッドは、奇跡を「100万回に1回の割合でしか起こらない特別な出来事」と定義した。また、人は平均して一日に8時間ほど外界に注意を払っており、平均して1秒に一度なんらかの事象を経験することがわかっている。とすれば、35日で100万の事象を経験することになる。

 

したがって、あることが100万に一つの確率で起こるとすれば、だいたい1カ月に一度は起こることになる。ならば「奇跡は月に一度起こる」。これを「リトルウッドの法則」という。奇跡の出現は、よくあること、とも言えるのだ。

 

というわけで、その奇跡を利用してよからぬ「ビジネス」を考案する人間もいる。気をつけるにこしたことはない。

 

 

竹内 一郎

 

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本記事は『見抜く力 結果を出す人はどこを見ているか』(河出書房新社)より抜粋・再編集したものです。

見抜く力 結果を出す人はどこを見ているか

見抜く力 結果を出す人はどこを見ているか

竹内 一郎

河出書房新社

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