(写真はイメージです/PIXTA)

良好な環境のもとで生活する権利である環境権。自宅やビルを建設したことでほかの住人の環境権を侵害してしまった場合、どのようなことが考えられるでしょうか。本記事では、不動産法務に詳しいAuthense法律事務所の森田雅也弁護士が環境権について解説します。

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憲法を根拠とする環境権…具体的にはどんな権利?

一般的に、環境権とは良好な環境のもとで生活する権利を指します。大気汚染など公害の場面で話題にのぼることも少なくありませんが、隣にビルが建ったことで元から建っていた家の日当たりが悪くなったなど、建築の場面で問題となることも多々あります。

 

まずは、この環境権について基本を確認しておきましょう。

 

■「環境権」は法律に明記された権利ではない

 

実は、「環境権」は法律で明文化された権利ではありません。そのため、環境権を侵害されたからといって、損害賠償請求や差し止め請求などが直ちに認められるわけではないのです。

 

環境権は、まだ個人の権利として確立しているとまでは言えないでしょう。

 

■環境権の根拠は憲法にある

 

環境権が明文化されたものではないのであれば、環境権は何を根拠にしているのでしょうか? その根拠は、日本国憲法の次の規定にあるとされています。

 

こうした規定を根拠として、環境権が主張されているのです。

「環境権」を具体化した「建築ルール」

環境権自体は個人の権利として確立しているとまでは言えないものの、環境権「的な」発想から定められている建築ルールはいくつか存在します。

 

これらは、実際に建築物を建築する際や土地を利用する際などに具体的に守らなければならないルールです。ここでは、代表的な建築ルールを4つ紹介します。

 

■公道に至るための他の土地の通行権

 

公道に至るための他の土地の通行権とは、他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者が、公道に至るために、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる民法上の権利です。

 

通行権を有する者は、必要で、かつ、他の土地への損害が最小限にとどまる程度の通路を開設することもできるとされており、通行される土地の所有者は、その限度で、これを拒むことはできません。

 

本来、土地の所有者は自分の土地をどう使おうが自由であるはずですが、公道に通じない土地の所有者の生活環境を守るために利用が制限されることがあるのです。なお、公道に面さない土地には、原則として新たに建物を建てることはできません。

 

■境界線付近の建築の制限

 

土地を持っているからといって、その土地の境界線ギリギリまで建物を建ててよいわけではありません。民法により、建物を築造するには、境界線から50センチメートル以上の距離を保たなければならないとされているためです。

 

また、境界線から1メートル未満の距離において、他人の宅地を見通すことのできる窓や縁側、ベランダを建築する場合には、目隠しを付けなければなりません。これも、隣地に住む人の生活環境を守るために設けられているルールです。

 

■斜線規制

 

斜線規制とは、隣地や道路からの距離に応じて建築物の高さを規制した、建築基準法上のルールです。隣地や道路との境界線を起点として、建築物の高さと斜線の勾配(角度)が規制されています。斜線制限には、次の3つが存在します。

 

【3つの斜線制限】

 

  • 道路斜線制限

道路側との境界に面した部分の建築物の高さの制限です。接している道路の幅員により制限の内容が異なります。

 

  • 隣地斜線制限

隣地との境界に面した部分の建築物の高さ制限です。用途地域により制限の内容が異なります。第1種低層住居専用地域と第2種低層住居専用地域では建築物の高さの限度がそもそも斜線制限よりも低く定められているため、斜線制限の適用はありません。

 

  • 北側斜線制限

北側隣地との境界線に面した部分の建築物の高さ制限です。北側隣接地の日照を妨げないために設けられています。住居専用地域と田園住居地域にのみ設けられている規制です。なお、「北側」とは、太陽南中時に影ができる方角であり、磁石が示す方角ではありません。

 

斜線規制はこのように、隣地や道路の日照や採光、通風などの環境を悪化させないために定められています。

 

■日影規制

 

日影規制(にちえいきせい・ひかげきせい)とは、周辺の土地の日照を守るために建築基準法で定められている建物の高さ制限です。最も影が長くなる冬至の日の日照を基準として、建物の高さが規制されます。

 

規制を受ける建物の高さは、原則として10メートルを超えるものですが、第一種低層住居専用地域や第二種低層住居専用地域ではもう少し厳しく、軒の高さ7メートルを超える建物または地下を除く階数が3階建ての建物が規制の対象です。

 

地方公共団体の条例により規制の内容が異なる場合がありますので、建築予定地の条例も確認しておきましょう。

 

■景観法

 

景観法は、「都市、農山漁村等における良好な景観の形成を促進するため、景観計画の策定その他の施策を総合的に講ずることにより、美しく風格のある国土の形成、潤いのある豊かな生活環境の創造及び個性的で活力ある地域社会の実現を図り、もって国民生活の向上並びに国民経済及び地域社会の健全な発展に寄与すること」を目的として、平成16年12月に制定されました。

 

平たくいえば、都市などの景観を守る目的で定められた法律です。景観法自体が直接都市の景観や建築を規制しているわけではありませんが、各自治体が独自に景観計画を策定し、条例で建築物などを規制するための根拠となっています。

 

たとえば、昔ながらの町並みが美しい地域に立ち並ぶ住宅が、ある日突然近代的な外観へリフォームされてしまえば、景観を損ないかねません。京都の祇園地区に、突然コンクリート壁の近代的な住宅が建つことをイメージするとわかりやすいのではないでしょうか。こうした状況を避けるため、各自治体が計画や条例で景観を保護するための規制をすることが認められているのです。

 

例に挙げた京都の祇園町の一部では、屋根の形状や通りに面した窓、入口などの1階開口部のデザイン、塀の高さなどが細かく指定されています。このように、都市などの景観を守るための景観法や景観条例も、環境権から派生したものの一つといえるでしょう。

 

■騒音規制法

 

騒音も、良好な環境を阻害する要因の1つです。そこで、騒音規制法では、工場や事業場の騒音、建設作業騒音、自動車騒音、深夜騒音について規制を行っています。

 

たとえば、良好な住居の環境を保全するため、特に静穏の保持を必要とする区域などでは午後7時から午前7時の間、その他の指定地域では午後10時から午前6時の間には特に騒音が生じやすい指定の工事を行ってはなりません。

 

地域により規制時間が異なりますので、建築工事を行う際にはこの法律も確認しておきましょう。

 

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本記事はAuthense不動産法務のブログ・コラムを転載したものです。

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