教室で静かに過ごす子…ぽつりぽつりと明かしたのは
H先生:Dさんは、教室では1人でいることが多く、休み時間は読書をしたり、勉強に取り組んだりして過ごす、口数がとても少ない生徒でした。ある日、休み時間も遊ばず勉強している理由について尋ねてみました。
ぽつりぽつりと小さな声で語ってくれた話をまとめると、「授業を受けてもわからないところがあり、苦手なところを減らすために時間を有効に使って勉強している」とのことでした。分からないなら隣席にいる班の仲間に質問すればいいのですが、どこがわからないのか見当がつかないので、何をどのように質問したらいいのかと悩んでもいるようでした。
Dさんにとって、それだけのことを言葉にして口に出すというのは、大変な勇気と労力を要したと思います。雑談ではなく、自己開示だし、相手は教師ですからなおさらです。私は話してくれたことがうれしくて、たくさん「ありがとう」を伝えました。
それから私は、授業が終わるたび「今日はどうだった?」とDさんに声をかけるようになりました。はじめは、微笑んだり首が縦か横に振られるだけでしたが、続けるうちに「わかんない」「難しかった」などと単語で答えてくれるようになりました。
ある日、クラスメイトからのやや圧の高い問いかけに対しDさんがこんなことを言いました。
「言いたいことがはっきりまとまっていないと…」
「私は、自分の意見を言うまでに、言いたいことがはっきりまとまっていないと、自信を持って言うことができない」と。自分に起こっていることを正直に、自分の言葉で伝えられたのです。この自己開示が彼女自身の背中を押したように思います。
私やクラスメイトたちの彼女に対する理解も深まりました。このDさんの自己開示を私は「そんな風に感じていたんだね。ゆっくり考えて大丈夫だよ」と承認しました。
その後も、授業中「今、どこで困っている?」などと質問を繰り返したり、班での学び合いの際には「Dさんはどう思う?」「Zくんまだ書いていないけど、Dさんは何てまとめた?」などと時折タイミングを見て介入したりすることで、少しずつ答えるまでの時間が短くなり、声も出るようになってきました。ある日の面談でDさんはこう話してくれました。
「自分の意見を安心して言える場があると、勇気や元気をもらうことができ、前向きな気持ちになることができた」と。
その後、少人数で行われる委員会活動や、班での学び合いの場で、Dさんはまた少し逞しい姿を見せてくれました。自分の考えをポンと思い切りよく口に出し始めたのです。最後まで言い切れずに途中で終わってしまうこともありますが、気にしていない様子です。言葉と一緒に、笑顔も発信し始めています。
子どもの歩みのペースは人それぞれです。でもどんな子もまちがいなく前進しています。
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小山英樹:教師の間では、職場の同僚に「コーチングや『主体的・対話的で深い学び』の勉強をしている」と言うと、次のような反応が返ってくることがあるようです。
・教室改革はしたいが自分にできるか不安・うちのクラスは荒れている子や勉強嫌いの子が多いので「主体的・対話的で深い学び」なんて無理だと思う
・対話型授業やグループ学習は時間がかかる。進学校ではやることがいっぱいで、ただでさえ時間がない……
・学力レベルが揃っているクラスならいいが、学力差のある子どもが混在するクラスでは難しいのでは?
・こちらがコーチング的に関わっても響く子と響かない子がいる。コーチングは万能ではない
・「主体的・対話的で深い学び」型授業は教師の手間がかかりそう。
教師の負担が増えて困るどれももっともな意見や疑問だと思います。誰しも初めてやることには不安がつきものですし、新しいものに懐疑的になるのは慎重な日本人の特性でもあります。
しかし、実際にやってみるとコーチングや「主体的・対話的で深い学び」型授業に対する印象が変わります。なぜなら、児童生徒の反応が目に見えて変わるからです。
まずは実践してみることが大切です。慣れてしまえばティーチング型授業よりずっとラクで、楽しいことが分かると思います。なんせ教師がガミガミ言わなくても、児童生徒が勝手に学んでくれるのです。
小山 英樹
株式会社対話教育所 代表取締役
一般社団法人日本教育メソッド研究機構(JEMRO) 代表理事
一般社団法人日本青少年育成協会(JYDA) 会員