中退共より「利回りが高い」が…スタッフの反応は
X医療法人が選択制確定拠出年金を導入したきっかけは、中退共や養老保険だけで従業員の将来的な保障にどれだけ役立つのだろうかと、理事長が疑問を感じたことでした。
「中退共も養老保険もよくいえば“確実”ですが、低金利が続いている今の時代には、実質的には『積み立て預金』と同じではないですか。私は自分でも、NISAなどに投資をしていたので、せっかくお金を出すのなら、もう少し有利に運用できる方法があるのではないかと考えていたのです」(A理事長)。
新しい制度として検討されたのは、企業型確定拠出年金と確定給付企業年金の2つです。
しかし、確定給付企業年金は法人の負担が大きいと考えて、自ずと候補は企業型確定拠出年金に絞られました。
詳しく調べてみると、企業型確定拠出年金は老後資金を増やせるだけでなく、税制や個人の費用負担などの面でもメリットのあることが分かりました。加えて、「社会保険料を削減できる可能性がある」「全員加入の必要がない」など、法人側のメリットが感じられたことも導入を後押ししたといいます。
「もともと、私たちのような中小企業ではそんなに退職金は払えません。一時金で支払うとしたら、全員に1000万円を払うというのは、正直なところ難しいと感じます。
しかし、例えば毎月1万円を30年間積み立てるだけなら360万円ですが、それを企業型確定拠出年金で運用していくと、うまく利回りが取れれば、500万円とか700万円になる可能性が高い。そういうメリットのある制度をスタッフに提供することが、結局は法人にとってもプラスになるのではないかと思ったのです」
その後、共通の知人を通じて紹介され、私たちがX医療法人の企業型確定拠出年金導入をお手伝いすることになりました。
A理事長と相談のうえで、既存制度を廃止するのではなく、追加で確定拠出年金を導入するのがベターであると思われました。追加になるため、導入コストや拠出金負担がどのくらいになり、法人として負担に耐え得るかについては、十分に事前シミュレーションをしてチェックしました。
ただし、A理事長自身は、もともと自分の発案から導入を考え、積極的だったこともあり、制度設計ではそれほど悩んだり困ったりしたことはなかったそうです。
「選択制にするか、標準タイプにして全員加入とするかは少し考えました。しかし、うちの場合は既存の制度を残すこともあって、選択制のほうがいいだろうとすぐに決まりました。また、細川さんに、導入時のスタッフに対する説明をすごく丁寧にやってもらえたので、困ったことはほぼありませんでした」
こうして、企業型確定拠出年金の導入まではスムーズに進みましたが、実際に運用が始まってからスタッフが確定拠出年金についてどう思っているのか、その感触がなかなかつかめず、正直なところ不安に感じることもあったとA理事長は言います。