(画像はイメージです/PIXTA)

ある男性が、資産家の父親から複数の収益物件を相続しました。そのなかに築古で空室も多く、賃借人の家賃滞納が目立つ「不良物件」が含まれていました。相続人はアパートを建て替えたいと思っていますが、賃借人の退去が問題です。どのように対処すればいいのでしょうか。長年にわたり相続案件を幅広く扱ってきた、高島総合法律事務所の代表弁護士、高島秀行氏が実例をもとに解説します。

古いアパートから「賃借人に出ていってもらう」には

賃借人との賃貸借契約を終了するためには、正当な理由が必要で、かつ、契約期間の満了の1年前から半年前の間に契約の更新をせずに終了すると貸主が借主に通知しなければなりません。

 

正当な理由には、ただ建て替えたいというだけではだめで、建物が老朽化して、建て替えないと不都合が生じることが必要ですし、一般的には、賃借人に対し、合理的な立ち退き料を支払うことも正当な理由に含まれています。

 

そのことを考えると、今回の設問のアパートは古いので、空室率が高いということですから、空室の部分はもうすでに立ち退きが済んでおり、新たに入居者を入れなければ、立ち退き交渉をする必要がないとも考えられます。

 

次に、賃料の滞納率が高いということですが、賃料の滞納については、相続人が滞納賃料についての請求権を相続しますから、被相続人が滞納について厳しく取り立てていないとしても、賃料は支払わなくてもよいなど免除をしていなければ、相続人は滞納者に対し、未払賃料を請求することができます。

 

したがって、選択肢①は誤りで、選択肢②は正解となります。

 

ただし、設問では、太郎さんは建て替えを考えているということですから、滞納者に賃料を請求し、払ってもらうだけでは仕方がありません。

 

賃料の滞納があれば、それを理由として契約を解除して、立ち退いてもらうことを請求することができます。

 

賃料滞納といっても、やはり賃借人は法律で保護されていることから、1ヵ月分の支払いを少し遅れただけでは、賃料滞納を理由に契約を解除することはできません。

 

過去の判例では、3ヵ月分の賃料を支払わず、それに対し、一定期間内に支払うよう催告して、それでも支払わない場合に、契約を解除できるとされています。

 

この一定期間は通常2週間くらいとされています。

 

このように、賃料滞納の場面でも賃借人は保護されているので、2週間以内に支払えと言って一括で支払われてしまっても、契約を解除することはできません。

 

しかし、賃料を滞納している人が、2週間以内に一括で滞納家賃を支払うよう言われても、なかなか支払えないのが現実だと思います。

 

したがって、賃料の滞納者の滞納額が多ければ多いほど、解除して立ち退いてもらえるチャンスだと考えられます。

 

賃料の滞納額が多い場合、任意の交渉で、滞納額の支払いはないことにするので任意に出て行ってもらうという交渉の可能かもしれません。

 

したがって、選択肢③も正解です。

 

今回の設問では、選択肢②も、選択肢③も法律上は正しく正解となります。

 

しかし、先ほどいいました通り、太郎さんは建て替えがしたいのですから、賃借人に立ち退いてもらう方法としてどちらがいいかということを考えなければなりません。

 

そうなると、本件では、選択肢③がより太郎さんの意向に沿った解決方法になるということとなります。

 

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

高島 秀行
高島総合法律事務所
代表弁護士

 

 

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