猫のように生きる…医師が勧める「大脳のリセット」法
猫には現在しかありません。未来のことは一切考えません。だから自分の死についても考えません。一瞬一瞬を懸命に生きているのが、猫なのです。
人間も猫のように生きられないものでしょうか。そこで私が勧めているのが、生活の中に「マインドフルネス」を取り入れることです。マインドフルネスとは、座禅などの仏教の瞑想法から生まれたもので、「今、この瞬間を大切にする生き方」のことを言います。
マインドフルネスには2つの重要な要素があります。1つは、今の自分がどのような状態にあっても一切「判断をしない」こと。もう1つは、「今この瞬間に意識を向ける」ことです。判断しないことで、自分がありのままでいることができるようになるのです。
今この瞬間に意識を向けることで、周囲のことに気をとられなくなり、心が穏やかになると言われています。がん患者さんは、時間のことばかり気にしていますから、時間にとらわれない生活が必要です。それで私は患者さんにもマインドフルネスを勧めています。
マインドフルネスな状態になるためには、大脳の働きを一時的に遮断する時間が必要です。養老先生の言うように、都市は大脳が作り出したものですから、都会に住んでいる人は、あえて自然の中に足を運ぶなどすることで、今だけを意識する時間が持ちやすくなるのではないでしょうか(※)。
※ 養老先生は、大脳にとって最も忌避すべきものが死であり、大脳も死と同様に自然の一部であることを忘れるため、都市という人工物を作り出したのだと語ります。
養老先生も現代版の「参勤交代」といって、都会と田舎を行き来することを勧めています。具体的にいうと、都会に住む人は、1年のうち3ヵ月を田舎で暮らし、そのあと都会に戻って9ヵ月を過ごすというライフスタイルです。3ヵ月は無理でも、ときどき自然のある場所に出かけることで、時間に囚われている大脳をリセットできるかもしれません。
中川 恵一
東京大学大学院 医学系研究科 特任教授