(※画像はイメージです/PIXTA)

中学受験専門カウンセラー安浪京子 × 教育ジャーナリストおおたとしまさ。中学受験で最難関校を目指している子の成績が急落することがあるという。解法を丸暗記して基礎が脆弱な、いわゆる「フェイク学力」です。丸暗記の勉強法はどのように変えたらいいのか、教育現場に詳しい2人はどう答えたでしょうか。※本連載は安浪京子氏、おおたとしまさ氏の著書『中学受験の親たちへ 子どもの「最高」を引き出すルール』(大和書房)から一部を抜粋し、再編集したものです。

自分の力で勉強方法を確立できるのは大きな財産

■「目先の点数」にとらわれる親が生んだ不幸

 

安浪 実際のところ、親が目先の点数をとらせようとしてやっているんです。

 

おおた そうですか……。子どもはどうしたらいい点数をとれるか、先のことは考えずに瞬間的に効果の高い勉強法を選んでしまうから、丸暗記の勉強法が身についてしまう。それは親の責任だと思います。親が自分の胸に手を当てて、思い当たる節があるのなら、考え直してほしいですよね。

 

安浪 丸暗記の勉強法をする子にも2種類います。親がやらせている子と自分で考えてやっている子。この両者では、中高に上がったときに学力の伸び方がちがうんですよ。

 

おおた そうなんですか。

 

安浪 中学受験でどちらの子が受かりやすいかというと、親がやらせている子です。基礎の「き」がわからなくても、難しい問題は反射的にパンッと正解を出せるくらいやりこんでいるから、最難関校を目指して猛勉強させる家庭は、この「力技」で難関校に案外合格させることができちゃったりするんです。

 

このやり方の一番不幸なところは、中高に入ってもその「力技」の勉強法をし続けないと、点がとれないということ。子どもは中学に入ってラクになりたいと思っているのに、親子でそれが成功体験になってしまい、この勉強法をさらに加速させないといけないから疲れ果ててしまう。反抗期も始まるし、本当にかわいそうです。結局、学校をやめたり、大学受験で3浪、4浪したりしてしまうんです。

 

一方、「暗記勉強法」を自分で確立してきた子は、先生であれ本であれ、正しい勉強の仕方と出合って軌道修正をかけることができます。

 

特に、主体性が育つ中学校時代に自分の力で勉強方法を確立できるのは大きな財産ですよね。

 

■対象的な勉強法の二人が、同じ中学に合格……

 

安浪 私の教え子に、今は高校生のHちゃんと中学生のY君がいます。Hちゃんは3年生から塾に通い、6年生になると塾は週4日、日曜の特訓授業は軽く6時間を超え、塾から帰っても寝る前に勉強、塾のない日は学校から帰ると毎日5時間以上勉強していました。

 

一方、Y君は4年生から塾に通っていましたが、5年生の後半から徐々に塾に行かなくなり、6年生の夏休み前に塾をやめました。その後、すべて個別指導に切り替えましたが、個別指導がない日は学校から帰ると、毎日の勉強時間は30分未満。

 

私がHちゃんとY君に出す宿題の量もまったく異なりました。Hちゃんには通常どおりの宿題を出していましたが、Y君に同じ量の宿題を出すと「そんなに無理」と、かえってモチベーションが下がり、勉強そのものを放棄してしまいます。私が二人に出した宿題の量は5倍以上の開きがあったのではないでしょうか。

 

そして、Hちゃんは念願の第1志望に合格、Y君は第3志望に合格。二人は今、同じ学校に通っています。

 

おおた 長時間コツコツ型のHちゃんと、勉強時間の短いY君。ちょっと気になったのは、Hちゃんのほうがたくさん勉強したけれど、結局Y君と同じ学校に合格したという部分だけを見ると、世間一般的にはHちゃんのほうが「残念ちゃん」に思われちゃう可能性があるかなということでした。

 

安浪 Hちゃんはすごくがんばって第1志望に合格したんです。「残念ちゃん」に見えますか?

 

おおた 世の中的には、少ない労力で高い結果を得たほうが優秀だという価値観があるじゃないですか。「コスパ」という言葉を使ったりするけど、でも、そういうものじゃないよね、と言いたい。

 

Y君はY君でこのままでいいと思うけれど、HちゃんはHちゃんのやり方で自分の望みを叶えたわけだから、胸を張れることだし立派だよね、と思う。それぞれの経験があって、それぞれ受験で得たものがある。でも読んだ人からすると、Hちゃんのほうが損をしていると思う人もいるんじゃないかと……。

 

安浪 実は、Y君は当時、家庭環境も不安定で、学校にもあまり行かず、ゲーム依存になっていたんです。それでも短期集中でチャチャッと受かってしまったので、私はひそかに「中学に入って苦労するんじゃないか……」と心配していたんです。一方で、Hちゃんは、「楽しい中学校生活を送れるだろうな」と、何の心配もしていなかった。

 

後日談としては、Hちゃんは予想どおり、入学後もコツコツ勉強していますし、学校も楽しんでいる。そして、Y君はというと、実はそれなりに楽しくやっていると聞いてホッとしたんです。

 

おおた それはよかった。

 

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    ※本連載は安浪京子氏、おおたとしまさ氏の著書『中学受験の親たちへ 子どもの「最高」を引き出すルール』(大和書房)から一部を抜粋し、再編集したものです。

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