新型コロナウイルスは「住む場所選び」を変えた
2020年は、後に「コロナイヤー」と呼ばれるはずだ。
新型コロナの感染拡大によって、働き方や暮らし方が大きく変わった人が多いことだろう。最も大きな変化は、テレワークによって「毎日会社に行かなくてもいい」という人が増えたことではなかろうか。
それはつまり、「毎日会社に行くために交通アクセスが便利な場所に住まなくてもいい」ということでもあるのだ。この変化は首都圏の不動産市場にも、これまでにないトレンドを生み出している。
例えば、自宅の中でテレワークを行うにも場所が必要だ。家に家族がいるにもかかわらず、ダイニングテーブルを占拠し続けるわけにもいかない。打ち合わせや会議を行うには、ある程度静かな環境も必要になってくる。
私がこの期間に経験したテレワーク打ち合わせでは、駐車場に停めてあるマイカーから参加していた人がいた。
「すみません。家の中だと子どもが走り回っているので」
小さな子どもがいると、狭いマンション住戸内でのテレワークはキツそうだ。
そういうわけで2020年の4月以降、東京やその近郊では戸建て住宅がかなり好調に売れていたという。この流れはテレワークが定着していくとともに、しばらく続きそうである。
当たり前だが、都心から離れれば離れるほど、住宅購入のための費用は低くなる。ということはつまり、どこに住むか選べる範囲が広がるということだ。そんな時に選ばれる街とはどこだろう。
それはここ半世紀ほどで16号線沿線に急ごしらえで作られた、「寝に帰る」ことだけを目的とする、あの薄っぺらな街ではないと思う。
都心から離れた人々に選ばれるのは、それなりに住みたくなる魅力を備えた街である。それが自然環境なのか、街の歴史なのか、息づく文化であるのか、などはその人の個性と好み次第である。
東京には都心だけではなく、近郊にも郊外にも、そうした魅力を備えた街があると思う。東京の西側に限ったことではない。東側でも柴又や西新井、堀切菖蒲園などは、それなりに味わい深いところではなかろうか。
ずっと住み続けるというよりも、何年かを滞在気分で過ごすのも悪くなさそうである。
2050年には「日本国中」が通勤圏に?
2050年には、多くの人が住まい選びにおいて、毎日の通勤を前提にしなくなっているだろう。今はそれでも、週に1度くらいの出勤という会社が多いかもしれない。それが月に1度、あるいは数か月に1度の頻度になっている可能性がある。
現時点では、2次元の画面で相手を見ながら打ち合わせや会議をしているが、2050年にはもっとリアルなホログラムになっているだろう。相手の細かな表情までわかれば、感覚的には実際に対面しているのとあまり変わらなくなる。
そういう時代に、住まいが職場の近くでないことはほとんど不都合ではなくなる。2050年に多くの人が住みたがる街はどこだろうか。
私は海に近い湘南や伊豆が第一候補ではないかと考える。サーフィンを楽しむ人には、外房エリアもありうる。現に九十九里では、賃貸の戸建て需要が爆発的に伸びたという。
自然豊かな高尾や、スキーやスノーボードができて温泉のある湯沢も有力候補だ。札幌や沖縄に住んでも、出社が月に1度であれば十分に対応できる。予算が許せば軽井沢もいいだろう。場合によっては京都や金沢という選択肢さえある。
2050年には、日本全国どこに住んでもよいという条件で仕事をしている人の割合が、かなり高くなっていると予測する。
ただ、離れた街に住んでいたとしても、多くの人は定期的に東京にやって来たくなるのではないか。なぜなら今の東京も2050年の東京も、人々の求めるものを幅広く満たしてくれる魅力あふれる街だからである。
ではいったい、東京という街の役割は何になっているのだろうか。
榊 淳司
住宅ジャーナリスト
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