経営者の結婚には「婚前契約」が欠かせない理由
婚前契約とは、結婚生活についてのルールや万が一離婚に至った場合の財産分与の内容などについて、パートナー間で婚前に締結しておく契約です。
日本ではあまり一般的ではなく、どちらかといえばアメリカなど欧米諸国で多く用いられている印象があるかもしれませんが、日本でも婚前契約を締結することはできます。離婚により経営に影響を及ぼさないため、これから結婚を控えた経営者は、婚前契約の締結を検討すべきでしょう。
婚前契約は婚姻前に締結すべき理由
婚前契約を結ぶのであれば、婚姻届の提出前に締結する必要があります。なぜなら、民法に「夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる」との規定があるためです。
こうした規定があることから、婚姻後の約束はたとえそれが書面になっていたとしても、いつでも一方的に取り消されてしまう可能性があります。
いざというときになって、一方的に契約を取り消されてしまうようでは、契約の意味がありません。そのため、夫婦間での約束ごとを決めておきたいのであれば、夫婦となる前に契約を締結しておきましょう。
経営者が婚前契約の締結を検討すべき理由
婚前契約は、特に経営者であれば締結を検討すると良いでしょう。その理由は次のとおりです。
■離婚時の財産分与による経営へのダメージを防止できる
離婚時の財産分与とは、離婚をした者の一方が他方に対して婚姻期間中に形成した財産の分与を請求することができる制度です。
財産分与の金額や割合は、まず当事者間の合意が優先します。当事者間で合意ができなければ裁判所が決めることになりますが、その場合には、夫婦共働きであっても一方が専業主夫(婦)であっても、婚姻期間中に形成された財産を2分の1ずつに分けるように命じられることが多いようです※2。
これは、仮に外部から収入を得ていたのが夫婦の一方のみであったとしても、それはもう一方の内助の功があったためであるとの考えによるものといえるでしょう。
しかし、たとえば財産の大半が自社の株式であり、婚姻後に会社を成長させたことで株価が上昇していたような場合に、その上昇した価額分についてまで均等な分与を求められてしまうと経営に支障きたしかねません。
こうした事態に備えて、あらかじめ婚前契約で財産分与の対象から自社株式は除外する旨などを定めておくことで、万が一離婚に至った場合であっても経営への打撃を避けることが可能です。
■事前に夫婦の考え方を共有できる
離婚原因のトップは、性格の不一致によるものです※3。恋人同士のときとは異なり、いざ婚姻をして夫婦となれば共同で乗り越えるべき局面も少なくなく、子が生まれれば協力すべき場面もさらに多くなります。こうした際に性格や考え方の不一致が表面化し、修復できないほどにズレが大きくなってしまえば、離婚へ至ってしまうのです。
婚前契約には、離婚時の財産分与など金銭面に関することの他に、生活において守るべきルールや家事分担のルールなどについても定めることができます。たとえば、次のような内容です。
■婚前契約の例
・飲酒は最大週2回までとすること
・帰宅時間が遅くなる場合は、必ず連絡を入れること
・不貞が発覚した場合は、慰謝料として500万円を支払い、離婚の判断をすべて相手に委ねること
こうした生活面のルールすべてに法的な拘束力が生じるわけではありません。しかし、婚前契約の作成にあたり、あらかじめしっかりと話し合いをしておくことで、婚姻前に考えのすり合わせや共有をすることが可能です。
■婚姻後のトラブル対応の指針となる
長い結婚生活の中では、トラブルが生じてしまう場合もあるでしょう。こうした際にも、あらかじめ婚前契約に定めておけば、解決の指針となります。
たとえば、婚前契約において「育児の負担が偏らないよう最大限の努力をする」と定めたとします。それにもかかわらず、仕事の多忙を理由にほとんどすべての育児を妻が担っていることが原因で夫婦喧嘩となった場合、この指針に立ち返り、自らが負えそうな育児を検討するなどです。
経営にも迷った際に立ち返るべき経営指針が必要なように、婚前契約は夫婦間でトラブルになった際に立ち返る基本指針のような役割も担います。
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