前回は、私募リートで運用する不動産にはどんなリスクがあるのかを説明しました。今回も、引き続き不動産に関するリスクについて見ていきます。

どこまで売主の「瑕疵担保責任」を追及できるか?

前回の続きです。

 

(3)不動産の瑕疵に関するリスク

既に取得した不動産または今後取得する不動産に一定の瑕疵があった場合、投資法人は損害を被ることがあります。瑕疵の例としては、建物の構造、用いられる材質、地盤、特に土地に含有される有毒物質、地質の構造等に関する欠陥や瑕疵等が考えられます。このほか、不動産には様々な法規制が適用されているため、法令上の規制違反の状態をもって瑕疵とされることもありえます。

 

また、不動産に関する権利が第三者の権利により制限を受けたり、第三者の権利を侵害したりしていることもありえます。なお、不動産の売買においては、特約で排除されていない限り、その対象となる不動産に隠れた瑕疵があった場合には、投資法人は、売主に対して瑕疵担保責任を追及することができます。

 

しかし、売主が既に解散・清算されている場合や、売主が倒産し、もしくはその主要な資産が投資法人に売却した不動産のみであったためにその資力が十分でない場合には、買主である投資法人は、実際には売主との関係において瑕疵担保責任による保護を受けることができず、損害を被ることになります。

 

また、個別の事情により、売買契約上、売主が瑕疵担保責任を負担する期間を限定し、またはこれを全く負わない旨の特約をすることがあります。さらに、売主が表明・保証した事項が真実かつ正確であるとの保証はなく、表明・保証は法律上の制度ではないため、個別の事情により、売主が行う表明・保証の対象、これに基づく補償責任の期間または補償金額が限定され、あるいは表明・保証が全く行われない場合もありえます。

 

不動産信託受益権においても、直接の売買対象である不動産信託受益権またはその原資産である不動産に隠れた瑕疵があった場合については、上記と同様のリスクがあります。

 

そこで、不動産の信託契約や受益権譲渡契約において、売主に信託設定日等において既に存在していた原資産である不動産の瑕疵について瑕疵担保責任を負担させ、または一定の事実に関する表明及び保証を取得することがあります。

投資法人が担保責任を負担することも

しかし、このような責任を負担させても上記のように実効性がない場合及びそもそも責任を負担させなかった場合には、その不動産の実質的所有者である投資法人がこれを負担することになり、予定しない補修費用等が発生し、投資法人の収益が悪影響を受ける可能性があります。また、瑕疵の程度によっては、補修その他の措置をとったとしても、不動産の資産価値の減耗を防ぐことができない可能性があります。

 

なお、投資法人は、宅地建物取引業法上、宅地建物取引業者とみなされ、投資法人が宅地建物取引業者でない者に対して不動産を売却する場合には、宅地建物取引業法上、不動産の売主として民法上負う瑕疵担保責任を完全に排除することができません。したがって、投資法人または不動産信託受託者が不動産の売主となる場合には一定限度の瑕疵担保責任を負うことになる場合があります。

 

加えて、日本の法制度上、不動産登記にはいわゆる公信力がありません。したがって、不動産登記簿の記載を信じて取引した場合にも、買主は不動産に関する権利を取得できないことや予想に反して不動産に第三者の権利が設定されていることがありえます。このような場合、上記と同じく、投資法人は売主等に対して法律上または契約上許容される限度で責任を追及することとなりますが、その実効性があるとの保証はありません。

本連載は、2016年1月25日刊行の書籍『世界一わかりやすい私募REITの教科書』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

世界一わかりやすい私募REITの教科書

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初村 美宏

幻冬舎メディアコンサルティング

取引所に上場せず、オープンエンドで運用される不動産投資ファンド「私募REIT」。 1990年代にアメリカで人気となり日本でも2001年から発売が開始、不動産投資市場でも急成長を遂げている人気の投資商品である。主な投資者は機…

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