前回は、私募リートにおける「関係者の利益相反」リスクについて説明しました。今回は、不動産そのものに関するリスクについて見ていきます。

運用不動産の価格下落などは直接的なリスクに

前回の続きです。

 

⑤不動産に関するリスク

 

運用する不動産にかかわるリスクは、以下のように法律上のものから事実上のものまで数多くあります。

 

(1)不動産の流動性に関するリスク

不動産を譲渡するに際してデューデリジェンスを行った結果、譲渡対象となっている不動産の物理的状況や権利関係等について重大な欠陥や瑕疵等が発見された場合には、流動性が低下したり、売買価格が下落したりする可能性があります。また、投資採算の観点から希望した価格や時期その他の条件での物件取得ができなかったり、物件取得資金を調達できなかったりした場合には、利回りの向上や収益の安定化などのために最適と考えるポートフォリオを実現できない可能性があります。

 

さらに、投資法人が不動産を取得した後にこれらを処分する場合にも、投資採算の視点から希望通りの価格や時期その他の条件で売却できない可能性があります。

運用不動産を「誰が評価するか」もリスクになり得る

(2)専門家報告書等に関するリスク

不動産の鑑定評価額や不動産価格調査の調査価格は、個々の不動産鑑定士(鑑定評価機関)の分析に基づく、分析の時点における評価を示したものにとどまります。

 

また、その評価の目的・方法は、必ずしも転売や再取得の場合における市場価格を算出することではありません。加えて、同じ不動産について鑑定等を行った場合でも、評価方法や調査の方法、時期によって鑑定評価額や調査価格が異なる可能性があります。

 

したがって、鑑定及び価格調査の結果は、現在及び将来においてその鑑定評価額や調査価格による売買を保証・約束するものではなく、不動産が将来売却される場合であってもその鑑定評価額または調査価格で売却されるとは限りません。

 

また、投資法人は、不動産を取得するに際して、建設会社、不動産業者、リサーチ会社等の専門業者からエンジニアリング・レポート(建物状況評価報告書)、地震リスク評価報告書等を取得します。投資法人では、これらの専門業者からの報告書等をもとに取得対象資産の欠陥及び瑕疵の有無、耐震性能評価の確認を行っています。しかし、専門業者から提供されるこれらの諸資料の内容とその精度には限界があります。そのため、取得後に、取得した不動産に欠陥や瑕疵等が判明する可能性があります。

本連載は、2016年1月25日刊行の書籍『世界一わかりやすい私募REITの教科書』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

世界一わかりやすい私募REITの教科書

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初村 美宏

幻冬舎メディアコンサルティング

取引所に上場せず、オープンエンドで運用される不動産投資ファンド「私募REIT」。 1990年代にアメリカで人気となり日本でも2001年から発売が開始、不動産投資市場でも急成長を遂げている人気の投資商品である。主な投資者は機…

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