今後のインフレ見通し
(今後のインフレ見通し)23年にかけてインフレ率の低下を予想
これまでみたようにインフレ高進はエネルギーを含む原材料価格や物流コストの上昇に加え、サプライチェーンの混乱に伴う供給制約などによって財価格が上昇したことが大きい。
これらはいずれも新型コロナ感染拡大の影響を大きく受けており、今後世界的に新型コロナの感染が落ち着くことで、個人消費が財からサービスにシフトすることが見込まれるほか、サプライチェーンの混乱に伴う供給制約も解消していくとみられることから、財価格は下落に転じ来年以降はインフレ率の低下が見込まれる。
当研究所は来年以降世界的に新型コロナの感染が抑制される前提でCPI(前年比)が21年に+4.4%となった後、22年に+3.4%、23年に+2.3%まで低下すると予想する。もっとも、足元でオミクロン株の感染拡大が懸念される中、原油価格は急落したものの、今後のコロナ感染動向が見通せないこともあって、原材料不足や労働力不足などの供給制約の解消時期については不透明感が強い。
さらに、後述する今後の注目ポイントで示すように賃金上昇がスパイラル的なインフレ上昇に繋がる場合や、住宅価格の大幅な上昇を背景に家賃の上昇基調が持続する場合にはインフレが長期間高止まりする可能性はあり、今後の動向には注意が必要だ。
今後の注目ポイント(1) 労働供給の回復と賃金上昇
25歳から54歳までのプライムエイジと呼ばれる働き盛りの労働参加率は新型コロナ流行前(20年2月)の82.9%から新型コロナの影響で20年4月に79.8%まで低下した後は回復基調にあるものの、21年10月は81.7%と新型コロナ流行前を依然として▲1.2%ポイント下回っており、新型コロナで労働市場から退出した人の職場復帰が遅れている(図表9)。
旺盛な労働需要に比べて労働供給の回復が遅れている結果、労働需給の逼迫を背景に賃金上昇が加速している。賃金・給与や給付金を含む時間当たりの雇用コストを示す雇用コスト指数は、21年7~9月期が前年同期比+3.7%と04年10~12月期以来の水準に上昇した。
一方、業種別の時間当たり賃金は、賃金水準の低い娯楽・宿泊業が前年同月比+13.2%と突出しているほか、運輸・倉庫の+7.4%、教育・医療の+7.2%と続いている。これらの業種は新型コロナの影響で大幅に雇用喪失した部門であり、情報など在宅勤務が可能で雇用喪失が大きくない業種では賃金上昇が限定的となるなど、大幅な賃金上昇は一部の業種に限られている(図表10)。
今後、新型コロナの影響が長期化し、労働供給の回復が遅れる場合には労働需給の逼迫を背景に賃金上昇が幅広い業種に広がる可能性がある。その場合は、賃金上昇によるスパイラル的なインフレ上昇となる可能性があろう。
今後の注目ポイント(2) 家賃の持続的な上昇
家賃などの住居費はCPI指数の3割弱、PCE価格指数の2割弱のウェイトを占めており、物価動向を大きく左右する(図表11)。住宅市場の活況を受けて20年の春先以降は住宅価格が大幅に上昇しており、主要な住宅価格指数は前年同月比で2割弱と過去30年間で最も高い伸びとなっている(図表12)。
住居費は新型コロナ流行後に低下していたものの、住宅価格の上昇を背景に21年入り後は帰属家賃※が上昇に転じたほか、21年夏場以降は家賃が上昇に転じたことから住居費も反発しており、21年10月は前年同月比+3.5%と19年9月以来の水準となった。もっとも、住居費の上昇率は新型コロナ流行前の水準に戻った程度に留まっており、主要な物価押上げ要因とはなっていない。
※ 持ち家の住宅から得られるサービスに相当する価値を見積もり、これを住宅費用とみなした場合に支払われるであろう家賃
一方、住居費は住宅価格の上昇から遅れて上昇する傾向があり、住宅価格が高止まりする場合には住居費の上昇が持続する可能性がある。その場合は、住居費が物価の押上げ要因となりインフレが高止まりしよう。
窪谷 浩
ニッセイ基礎研究所
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