自殺者数は4ヵ月連続で減少…様々なデータに表れてきた「コロナ禍からの回復」

宅森昭吉のエコノミックレポート

自殺者数は4ヵ月連続で減少…様々なデータに表れてきた「コロナ禍からの回復」
(※写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「宅森昭吉のエコノミックレポート」の『身近なデータで見た経済動向』を転載したものです。

 

12月のトピック

「部材供給不足の影響緩和で、生産指数・4ヵ月ぶり前月比上昇。基調判断は『足踏み』続くが、景気動向指数CI・先行一致とも4ヵ月ぶり上昇見込み。足元新型コロナ落ち着き、新語流行語大賞・ノミネート語30で『新型コロナ』関連語が2割に低下。要注視のオミクロン型変異株動向」

ESPフォーキャスト調査・特別調査で、「コロナ感染」は景気リスク1位の座を明け渡す

ESPフォーキャスト調査では随時、特別調査が実施される。20年9月から奇数月に、「景気のリスク」をフォーキャスターが3つまで挙げている。21年9月調査までずっと「景気のリスク」の1位は「新型コロナウイルス感染状況」だった。ところが、新型コロナウイルス新規感染者が急減した状況を反映して、11月調査で「新型コロナウイルス感染状況」が「中国景気の悪化」に抜かれ2位となり、「景気のリスク」1位の座を明け渡した(図表1)。3位は「原油価格上昇」で、こちらも前回3位だった「米国景気の悪化」を逆転した。

 

 

なお、新たな懸念材料が発生した。WHOは11月26日、南アフリカなどで確認された新型コロナウイルスの新たな変異株を「懸念される変異株」に指定し、オミクロン型と命名した。特徴として、感染力がデルタ型よりも強く、ワクチンが効きにくい可能性が報道されている。26日の日経平均株価は前日比747円66銭と大幅に下落した。日本は当面水際対策強化で対応することになろうが、オミクロン型の動向は要注視だ。

 

先行きオミクロン型変異株への懸念があるものの、足元の新型コロナウイルスの感染は、かなり落ち着いた状況が続いている。全国の新型コロナウイルス新規感染者の過去最高は8月20日の25,992人だったが、10月30日の282人を最後に最高水準の1%未満の水準が、10月29日から直近11月30日まで33日間連続して続いている(NHKのHPによる)。ワクチン接種は順調に進み、首相官邸のHPによると、ワクチン接種が完了した割合は、11月30日時点では76.9%になった。こうした状況下で、コロナ禍からの回復が様々なデータに表れてきている。

オミクロン型変異株の動向次第。10~12月期が前期比上昇に戻れるかどうかはまだ微妙

鉱工業生産指数・10月分速報値・前月比は+1.1%と、部材供給不足の影響などが緩和されたことを受けて、4ヵ月ぶりの上昇となった。全体15業種のうち、自動車工業、生産用機械工業や汎用・業務用機械工業など8業種が前月比上昇、無機・有機化学工業、鉄鋼・非鉄金属工業など6業種が前月比低下、パルプ・紙・紙加工品工業・1業種が前月比横ばいで、全体としては上昇となった。

 

鉱工業生産指数の先行きを製造工業予測指数でみると11月分は前月比+9.0%の上昇、12月分は前月比+2.1%上昇の見込みである。過去のパターン等で製造工業予測指数を修正した経済産業省の機械的な補正値でみても、11月分の前月比は先行き試算値最頻値で+4.2%の上昇になる見込みである。90%の確率に収まる範囲は+2.2%~+6.2%になっている。

 

半導体不足、アジアのコロナ禍に伴う部材供給不足で7~9月期は5四半期ぶりに前期比低下になったが、生産指数は先行き上昇が期待されている。なお、10~12月期は前期比上昇に戻れるかどうかはまだ微妙な状況だろう(図表2)。足元で、新型コロナウイルスの新たな変異株オミクロン型が発生したことで今後の動向が注視される。

 

アニマルスピリッツ指標は11月調査結果のDIは▲10.2で、弱いながら2ヵ月連続改善

経済産業省が製造工業生産予測指数から作成しているアニマルスピリッツ指標(生産活動マインド指標:DI)は21年5月調査結果で、11ヵ月連続のプラスの数値となり、企業の生産マインドは強気の状況が続いていたが、6月~11月調査結果ではDIはマイナスになっている。11月調査結果のDIは▲10.2である。まだ、弱い数字だが、10月調査結果からは2.8ポイント改善した。これで2ヵ月連続改善となった(図表3)。

 

 

10月分の景気動向指数・速報値では、先行CIの前月差は4ヵ月ぶりの上昇になると予測する。最終需要財在庫率指数(逆サイクル)、鉱工業生産財在庫率指数(逆サイクル)、新規求人数など7系列が前月差プラス寄与に、マネーストックなど3系列が前月差マイナス寄与になるとみられる。

 

また、10月分の一致CIも前月差+1.3程度と4ヵ月ぶりの上昇になると予測する。生産指数、商業販売額指数・小売業、輸出数量指数など5系列が前月差プラス寄与に、投資財出荷指数など3系列が前月差マイナス寄与になるとみられる。

 

なお、予測通りだと3ヵ月後方移動平均は前月差下降になる。基調判断が「足踏み」から「改善」に戻るためには、「3ヵ月以上連続して、3ヵ月後方移動平均が上昇」という条件があるため、9月分・10月分に続き、しばらく景気の基調判断は、景気拡張の動きが足踏み状態になっている可能性が高いことを示す「足踏み」が継続になると予測される。

小売業販売額・前年比はコロナ禍の落ち着きや緊急事態宣言解除により3ヵ月ぶりに増加

商業動態統計の小売業販売額(季節調整値)の10月分速報値・前月比+1.1%の増加となった。新型コロナウイルス感染拡大の落ち着きや緊急事態宣言の解除による、消費の回復を反映した数字である。前年同月比は+0.9%と3ヵ月ぶりの増加になった。20年10月分の前年同月比は+6.4%の増加であり、10月分の前年同月比は2年連続増加となったので、新型コロナウイルスの感染拡大以前の水準に戻ったと言える。前年同月比が2年連続増加になったのは、20年2月分以来、1年8ヵ月ぶりだ(図表4)。

 

 

小売業の業種別の10月分前年同月比をみると、燃料小売業が前年同月比+25.9%の増加である。名目値なので、最近の灯油やガソリンなどの値上げの影響も含まれる。飲食料品小売業が+3.7%の増加でこちらも食品の値上げの影響が含まれる。機械器具小売業が+2.2%の増加、医薬品・化粧品小売業が+1.7%の増加、各種商品小売業(百貨店など)が+0.5%の増加、その他小売業が+0.4%の増加となった。一方、半導体などの部品供給不足で生産が落ち込んだ自動車小売業が▲19.5%と2ケタの減少、織物・衣服・身の回り品小売業が▲2.0%の減少、無店舗小売業が▲2.0%の減少となった。

景気ウォッチャー調査、10月の現状水準判断DIコロナ禍以前の水準に戻る

9月と10月の景気ウォッチャー調査はコロナ禍からの回復を反映したものとなった。9月では、2~3ヵ月先の見通しを示す先行き判断DIは56.6と12.9ポイント上昇、3ヵ月ぶりに景況判断の分岐点の50を超えた。10月は0.9ポイントの上昇幅にとどまったが、57.5は13年11月(57.6)以来歴代2番目の高水準である。

 

一方、現状判断DIは、まだ緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発出していた時点での調査となった9月では42.1にとどまっていたが、10月では、緊急事態宣言解除等の影響が現状判断に反映され、55.5と前月から13.4ポイント改善し50超になった。現状判断DIが先行き判断DIの改善に追いついたかたちだ。55.5は14年1月(55.7)以来歴代5番目の高水準である。飲食関連、百貨店、旅行・交通関連、レジャー施設関連などの業種の現状判断DIが大幅に改善した。

 

現状判断には、新聞・テレビで大きく報道される、方向性を示す現状判断DIの他に、水準を示す現状水準判断DIがある。10月の現状水準判断DIは43.8と19年9月(47.3)以来の水準になったことは景況感のレベルがコロナ前に戻ったことを意味する(図表5)。

 

新型コロナウイルス関連DIは、現状判断、先行き判断ともに最高水準を更新

10月の新型コロナウイルス関連の、現状判断DIは59.8、先行き判断DIは61.4で、どちらも新型コロナウイルスが景気ウォッチャー調査に登場した20年1月以降の最高水準を更新した。現状判断、先行き判断とも新型コロナウイルス関連DIは全体DIを上回り、新型コロナウイルスが景況感の足を引っ張らなくなったことを示唆している(図表6)。ワクチン接種の全人口に対する完了割合が10月末(29日)に71.2%まで上昇する中、10月のワクチン関連判断DIは現状判断DIが55.8、先行き判断DIが68.1と景況判断の分岐点50を上回った。

 

 

今後発生が懸念される第6波についてコメントした人は10月では139人と、比較的多くの人が触れているが、第6波関連先行き判断DIは61.5で、影響は比較的軽微であるという判断が多いようだ。旅行業界が期待するのはGo Toトラベルの再開である。Go To関連先行き判断DIは74.6と高水準である。

 

足元、原油価格の上昇、それを受けてのガソリン価格の上昇などが話題になっている。また食品の値上げなども多く報道されている。11月8日時点のレギュラーガソリン1L当たりの全国平均・店頭価格は、169円00銭となった。2014年8月以来、約7年ぶりの高値である。その後、3週連続でやや低下したが、168円台の高値が続いている。11月中旬速報値の東京都区部の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)前年同月比は+0.3%上昇した。エネルギー項目などの上昇が全体を押し上げたが、携帯電話の通信料が大幅にさがっているため、前年同月比は落ち着いた動きになっている。

 

景気ウォッチャー調査の10月の価格・物価関連先行き判断のコメント数は69人にとどまっているが、DIは34.1と厳しい数字である。当面、消費者物価指数の前年同月比の動向と、景気ウォッチャー調査の価格・物価関連のコメントなどは要注視であろう。

10月自殺者数は前年比▲28.7%、4ヵ月連続で減少。年間で減少になる可能性も

完全失業率は2021年1月~9月までの平均で2.8%(2.84%)である。この期間で最も高かった月は5月の3.0%で一番低いのは3月の2.6%である。小数点第2位まででみると、5月は2.97%、3月は2.63%であった。10月は2.7%(2.68%)になった。

 

完全失業率と相関が高い自殺者数も改善傾向だ。10月の自殺者数の暫定値を1,590人になった。前年同月比は▲28.7%と大幅な減少である。前年同月比が減少になったのは、7月以降4ヵ月連続である。21年1月から10月までの自殺者数の累計は17,620人で、前年20年の同期の17,493人と比べて0.7%多い状況だ(図表7)。11月・12月次第で、前年比で若干の減少になる可能性もありそうだ。

 

2021年ノミネート語30で「東京オリ・パラ」関連語が「新型コロナ」より多く選出

2021年は「新型コロナウイルス」と「東京オリンピック・パラリンピック」が大きな話題になった1年だったと思われる。30のノミネート語をみると、「新型コロナウイルス」関連語では「自宅療養」「人流」「副反応」「変異株」「黙食/マスク会食」「路上飲み」の6語が選ばれた。全体の20%に当たる(図表8)。

 

 

1年前の2020年は「新型コロナウイルス」関連語は、年間大賞に選ばれた「3密」をはじめとして、「新しい生活様式/ニューノーマル」、「アベノマスク」、「アマビエ」、「エッセンシャルワーカー」、「おうち時間/ステイホーム」、「オンラインXX」、「クラスター」、「Go Toキャンペーン」、「自粛警察」、「Zoom映え」、「ソーシャルディスタンス」、「テレワーク/ワーケーション」、「濃厚接触者」、「PCR検査」と全体の50%に当たる15語であった。さらに、ステイホームが増えて利用が増えた「ウーバーイーツ」や、人との接触を避けることができる「ソロキャンプ」をも「新型コロナウイルス」関連語に加えると57%に当たる17語と過半数だった。

 

2020年は「新型コロナウイルス」一色といった感じだったが、2021年では変化が見られ、他の分野の新語・流行語も出てきた。2021年では、「東京オリンピック・パラリンピック」関連語が9語で全体の30%と「新型コロナウイルス」関連語を上回った。なお、年間大賞には、米大リーグで今季大活躍したロサンゼルス・エンゼルスの「大谷翔平選手」関連語の「リアル二刀流/ショータイム」が選ばれた。

九州場所懸賞前年同場所比3場所連続増加。千秋楽結び一番の懸賞本数本年2番目

コロナ禍でも順調に推移している身近なデータは多い。競馬売上高の足元のデータを確認しよう。JRA(日本中央競馬会)の売得金は20年ではネットでの馬券購入が増加し無観客開催の影響を相殺し、前年比+3.5%と9年連続の増加になった。21年は11月28日時点までの年初からの累計前年比は+3.4%の増加になっている(図表9)。10年連続上昇になる可能性が大きい。

 

 

大相撲の11月場所は2年ぶりに九州場所として開催された。懸賞は15日間で1,163本、前年同場所比+1.0%と3場所連続での増加となった(図表10)。但し、2年前は1,234本なので前々年比▲5.8%とまだ、コロナ禍前の本数には届かなかった。

 

 

今年の千秋楽結びの一番の懸賞本数は、初場所40本(朝乃山vs.正代)、春場所40本(朝乃山vs.正代)。夏場所38本(貴景勝vs.照ノ富士)、名古屋場所42本(白鵬vs.照ノ富士)。15日間の懸賞が1,373本になりコロナ禍での最多を更新した秋場所は49本(照ノ富士vs.正代)だった。九州場所は43本(照ノ富士vs.貴景勝)で、秋場所に次ぐ2番目の多さになった。

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『自殺者数は4ヵ月連続で減少…様々なデータに表れてきた「コロナ禍からの回復」』を参照)。

 

(2021年12月1日)

 

宅森 昭吉

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

理事・チーフエコノミスト

 

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