中学から学んだ一貫校生が課外活動でも成果を出す
■高校受験を廃止する中高一貫校が増えている?
安浪 「先取り教育をしているから大学受験に有利」というのが一面的であるという指摘も鋭いですね。
おおた ちょうどおもしろいデータがあるんです。都立中高一貫校で、中学から入った生徒と高校から入った生徒を比較したデータです。中学入学者のほうが学業だけでなく、課外活動でも高い成果を出していることがわかります。6年間でやったほうがよい面が多そうだよね、というふうにここでは結論づけている。
そもそも中学からと高校からでは入ってくる学力層がちがうことも大きいのですけど、一方で、高校受験がない「ゆとり」が思春期を豊かにしてくれる、というのは僕がよく言う主張ですが、これを裏づける形になっている。まあ、このデータがすべてとは思っていませんけど。
安浪 でも中学から叩き上げるところは叩き上げる、いわゆる予備校機能を備えている私立もあるので、それは大学受験に有利といえると思います。そういう私立で高校募集をしている学校は、高1で内進生と外進生のクラスを別々にしているところも多いんです。外進生が内進生の授業にいきなりは追いつけないから。
おおた 高校からの募集を停止する私立が増えている理由にもつながりますね。
安浪 たとえば、豊島岡が高校募集をやめたのも、高校から入ってくる子たちを馴染ませるのが大変だということと、高校から入ってくる子の学力が低くなる傾向があるということですよね。
おおた 私立のトップ校が高校受験をやめていっているのは、公立が相対的に強くなってきたからという理由もある。これは「公立高校復権」のところにも書いたけれど、高校受験での学力トップ層が公立に行くようになったからね。
一方、あんまり報道されていませんが、逆に私立の中堅校が高校受験を始める動きもあるんです。どこかに穴ができたらそこを私立が埋めるというように、公立と私立が相補的に動くという歴史がくり返されています。
■中高一貫校のメリットは「勉強以外」にある
安浪 中高一貫校が大学受験に有利なのは先取り教育だけではなく、おっしゃるような長期スパンに則った指導にもありますよね。灘なども、中学3年間かけて『銀の匙』1冊を読み込む国語の授業が有名でした。今はその先生は亡くなられましたが……。そういう“イズム”を持っている学校は有利ですよね。
おおた そういう学校のイズムにも、学力の器を広げるという意味があります。結果的に先取り教育になってはいるのですが、それよりもむしろ目先の1点2点にとらわれない学習の経験が中高一貫校のメリットだと思うんです。
安浪 以前、ある教育誌上で東大の1年生たちの座談会があったんです。私立出身者vs公立出身者で、「自分の子どもに中学受験をさせるか」がテーマだったんですが、私立出身者のほとんどが「受験させたい」と。「学校がムダなく東大までの最短のベルトコンベアに乗せてくれて感謝している」と言っていたんです。
おおた ベルトコンベア?
安浪 ベルトコンベアという言い方はしてなかったかな。要は、最難関大学に受かるために「余計なこと」をしない最短のスキームができていて、そのとおりにしたら東大に入れたと。そうやって東大に受かった子たちは、そこに魅力を感じて、「自分の子どもも私立に入れたい」と言っているんです。
おおた ちなみに、どういう学校ですか?
安浪 私立が開成、桜蔭、灘といった最難関校。灘の子だけが唯一「どちらでもいいと思う」と話していました。公立は、中部・中国地方などの高校。だから、おおたさんがおっしゃるようないろいろ広げてくれる学校に行っても、そこに目を向けずに受験勉強の部分だけを切り取って、そういう価値しか得られていない子もいるんです。座談会参加者がまだ大学1年生だというのもありますけどね。
安浪京子
株式会社アートオブエデュケーション代表取締役
算数教育家
中学受験専門カウンセラー
おおた としまさ
教育ジャーナリスト