(※画像はイメージです/PIXTA)

適切な医療を行うためには、患者との信頼関係が必要不可欠である。しかしながら、患者の権利意識の高まりとともに、信頼関係を築くことが困難になりつつあると感じる医療従事者も増えている。では、どのように患者と向き合い、どのように信頼関係を築いていけばいいのか。弁護士の渡邊泰範氏に、「インフォームド・コンセント」の重要性や利点を踏まえて語ってもらった。

「どこまで自己決定に委ねるべきか」を意識しての説明

自己決定権を保障する説明義務は、侵襲的医療行為を行う場合に限られるわけではありません。

 

患者の自己決定権を保障する場面は様々であり、終末期の延命治療や末期がんに対する積極的な治療を行うべきかといった個々の患者自身の生き方、人生観や死生観に深く関わる場面における自己決定権もあります。患者自身の生き方、人生観や死生観に深く関わる選択は、最大限に患者・家族等の自己決定に委ねるべきでしょう。

 

一方、必要不可欠な治療を行う場面では、患者・家族等の自己決定に委ねられる余地が狭くならざるを得ないと思われます。患者・家族等の自己決定できることが広範な場面もあれば、医療上の必要性から自己決定できることが少ない場面もあるということです。

 

また、確立した治療法が、複数存在する場合もあります。医療水準にかなった複数の選択肢があり、医師自身がどの選択をするべきか迷うこともありうるでしょう。そのような場合には、患者・家族等の自己決定に委ねる方が良いかも知れません。

 

このように、医師は場面に応じて、どこまで患者・家族等の自己決定に委ねるべきかを意識した上で、何をどこまで説明するべきか判断する必要があります。

「不適切な治療」の選択に従う義務はない

医師が患者にとってベストと考える治療方針を提案し十分に説明したが、患者・家族等が同意せず、異なる治療方法を選択した場合に、医師は当該患者の選択に必ず従わなければならないのでしょうか。

 

患者の自己決定権を前提とするならば、原則として医師は当該患者の選択を尊重し、当該患者の選択した治療方法を実施しなければなりません。医師が十分に説明したにもかかわらず、患者が敢えて治療を行わないという選択をしたのであれば、医師は患者の意思を尊重せざるを得ないということになります。

 

しかしながら、患者が選択した治療方法が医療水準からみて不適切な場合や医療上の適応がない場合にまで、医師が当該患者の意思に拘束されたり、従う義務が生じたりするものではないと考えられます。このような場合、当該医師は、患者の選択を実施する必要はなく,他の医療機関を受診するように勧めるのが良いと思われます。

 

医師が最適と考える治療方法と異なる未確立の治療方法を患者から求められた場合には、それを実施する義務はなく、またそれを実施している他の医療機関において受けることを勧める義務もありません。

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