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「契約無効」を求め1ヵ月以上…退けられた訴え
「どれだけ損をするかわからない。解約するしかないのか」
不安に押しつぶされそうな伊藤さんを長女はなだめた。なぜなら、外貨建て保険は設定した満期の前の一定期間内に解約すれば、「解約控除」として多くの金額が積立金から差し引かれ、それこそ「元本割れ」してしまうからだ。
長女は、外貨建て保険のパンフレットを見ながら、為替リスクや手数料などを改めて説明してみた。すると、伊藤さんはほとんど理解していないと判明した。
「あまりにも基本的な情報なのに……。こんな状態で銀行員はどうやって契約させたのだろう」と長女は憤る。
それから長女はこの商品を販売した銀行と、保険を引き受ける保険会社に対して、「契約無効」を求める行動を起こした。
まず金融庁に電話したが、「うちでは答えられないので」と「生命保険相談所」を紹介された。ここは、生命保険協会が設置した相談窓口だ。保険契約者などからの生命保険に関する相談を受け付け、苦情の解決に向けた支援を行う。
長女は当初、銀行側から「保険会社には言わないでください」と「お願い」されたという。だが、生保相談所からは「銀行の要求に従ってはいけない」との助言を受けた。
長女はその後、生保相談所のアドバイスに従いながら、保険会社や販売した銀行の担当者に直接会い、交渉した。手書きメモなどを見せながら、いかに不適切な説明をしたか、伊藤さんが元本割れなどのリスクを認識していなかったかなどを主張。1カ月以上、交渉を続けた。