銀行側の回答と矛盾する「音声データ」
銀行側ともめ始めた時期、伊藤さんは女性行員と電話をしている。その音声データを一部紹介したい。先ほど「有効性に影響はない」とされたものだ。
女性行員「ええ」
伊藤さん「今年はだいぶ、円高に進みましたよね。しばらくは続くんじゃないですか?」
女性行員「米中の貿易問題で、円高が長く続いてタイミングがなかったといいますか……」
伊藤さん「誰でも見越せないのではないですか。生活費で使いたいし、どうしたら良いと思う?」
女性行員「今日なんか(円安に)戻ってきましたし、貿易問題が落ち着くともう少し戻ってくると勝手ながら思うわけなのですが……。今回の問題では、私の(相場の)見方をお伝えしては駄目な状態になっておりまして、上司の方からとなっておりまして。気持ちではいろいろお話ししたいのですが……」
ここでは女性行員が「損をしない時期を私が教える」と言っていたことを認めている。伊藤さんがこの商品を購入する際の安心感にもつながっていた。そのうえで、いざトラブルになると、「自分の見方を教えては駄目となっている」と言い放っている。驚くべき、矛盾だ。
行員はこうなることを予測できなかったのか疑問である。むしろ、顧客とトラブルになったとしても、こうした逃げ道があると承知のうえだったのだろうか。
長女は、裁判より迅速で手続きが簡易なADR(裁判外紛争解決手続き)も検討した。だがそれでも、費用も時間もかかる。80歳間近の高齢の母が心労に耐えられないとも思い、諦めた。
「銀行だから信用できる」は大間違い
伊藤さんは後悔とともに銀行への不信感を抱いている。「銀行なので、まさかこんなにリスクの大きい商品を売るとは用心しなかった」
長女は言う。
「高齢者にとってはオレオレ詐欺と同じ。銀行だから信頼、信用できると思うのは大間違い。むしろ高齢者の銀行に対する信頼感を悪用している。高齢者特有の自信過剰や高いプライド、まだまだ自分自身で判断できるはずと思いたい心理につけ込んでいる」
柴田 秀並
朝日新聞
記者
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