自分の仕事力も進歩し、仕事図も進化する
■「仕事図」は少なくとも3回描く
私が行ってきた仕事図作成の研修では、受講者は「自分の仕事の図解など簡単だ」と思って鉛筆を手にしますが、たちまち、うまく表現できないことに気づきます。
それでも、30分も経つと、マルで囲んだり、矢印を描いたりしながら、自分の仕事について考え抜き、図解する作業に没頭し始めます。
研修では、1時間ほどして仕事図が描き上がったら、数人のグループで一人ずつ発表し、コメントや質問を受けるステージに入ります。
コメントする側には、2つのポイントを指摘するようにしてもらいます。1つは、図解の技術的な改善点です。わかりにくい部分を指摘し、どう描けばわかりやすくなるか具体的な意見を出してもらいます。
もう1つは仕事の中身に関することです。どんな仕事なのか、具体的に理解できなかった点を指摘してもらいます。他のメンバーの指摘は、自分でもまったく気づいていなかった盲点であったり、自分でも「ここはうまく表現できていないな」と思うような痛いところを突くものだったりします。
実際、発表は、「本当は違うんですが……」「これではわからないと思うんですが……」などと、いい訳から始まる人が多いのが特徴です。自分の描いた図解に、自分でも納得していないからでしょう。
グループのメンバーから出た批評や質問、発表中に自分自身の心のなかに浮かんだことを盛り込んで2回目の図を描きます。発表によって、自分の仕事について客観的にとらえることができるようになるので、2回目の図解は1回目と比べて、はるかにいい図ができあがります。
2回目の図については、講師である私が疑問や修正点を指摘します。それをもとに3回目の図を描きますが、この段階では、かなりの確信をもって自分の仕事を把握できるようになり、最初の図からは想像できないくらいのレベルの仕事図ができあがります。こうして、1日がかりの研修が終了するわけです。
ただ、重要なのは、仕事図にはけっして「完成」という概念はないということです。
世の中は常に流動しています。特に現代は変化が速く、不確実で先行きが不透明でどのように変化していくかわかりません。仕事が、世の中と自分とをつなぐ仲立ちをしているものであるとすれば、自分の仕事もどんどん変化していく。その変化に対応しながら、自分の仕事力も進歩し、それとともに仕事図も進化していく。それが仕事図のダイナミズムなのです。
久恒 啓一
多摩大学名誉教授・宮城大学名誉教授