図解は自分の仕事の本質を理解させる
私の知り合いのある編集者は、「原稿を読むときは、中学二年生になったつもりでわかりにくい点を探す」といっています。
大人のビジネス社会では、往々にして、「相手もわかっているだろう」ということを前提にして議論が進んだりします。
わかりやすい図を描くには、見る人は知らないのが当然という前提に立って、自分の図を客観的にとらえ、第三者の目になって、わかりにくい部分を見つけ出すことです。
ある電機メーカーで研修したときのことです。部品の修理を担当する社員が自分の仕事図にその部品名を書きました。その社員にとっては、「部品=自分の仕事」だったわけです。
そこで、「何の部品か」と聞くと、冷蔵庫の部品だといいます。「では、冷蔵庫はどこにあって、何のためにあるか」と質問していくと、「あ、そうか」と気づき、「家庭にあって、人々の豊かな暮らしのためにあります」という答えが出てきました。
注意すべき3つ目のポイントは、自分の仕事にとっての「最終消費者を忘れずに描く」ことです。「最終消費者」は「最終顧客」とも呼ばれます。英語でいえば、エンドユーザーです。
ところが、実際に研修を行うと、仕事図に最終消費者が描かれないことがよくありました。
驚いたのは、公務員に仕事図を描かせても、「住民」が出てこないケースが少なからずあったことです。ある市役所の職員の描いた図が、県庁やJA(農業協同組合)の担当者とだけつながっていて、何をしている人なのかわからないこともありました。
原因は、目先の仕事にばかり目が向けられて、視野が狭くなり、自分の仕事の本質的な意味や目的が見えていないことにあります。
市役所の農業関係の部門であれば、自分の仕事は、農業の発展に貢献することで農業に従事する人たちの生活を守るとともに、生産物によって国民の豊かな食生活を実現することにあるといった意味や目的があるはずです。
そうした構図が描かれたうえで、市長が掲げるビジョンや市政のあり方、市全体の組織との関係性が描かれれば、きわめて完成度の高い仕事図になります。
自分が携わる仕事の最終消費者が見えてくると、仕事図の描き方がまったく違ってきます。仕事の図解をとおして、自分の仕事の本質的な意味や目的を再発見し、自分は何をするべきかをとらえ直し、もう一度自覚し直すことで仕事がブラッシュアップしていく。ここに仕事図を作成する意義があるのです。