前回は、親の認知症対策として「信託」を活用する方法を説明しました。今回は、相続財産のほとんどが自社株式である場合の遺産分割方法について見ていきます。

後継者以外に株式を承継すると様々な問題が発生

前回に引き続き、信託を活用した具体的な事例を見ていきます。

 

【ケース5】

長男、次男、長女と子どもが3人いるが、事業を営んでおり、相続財産のほとんどが自社株式であるため、遺産分割が難しい。

 

会社の経営者である父親は、後継者と考えている長男に株式を移譲したいが、相続財産のほとんどが株式であるため、次男や長女にも株式を相続させないと、不公平な分割となり、不幸な争いが起きかねない・・・オーナー社長の相続では非常によくある心配事です。

 

「争いを避けるために、自社株を兄弟姉妹にも公平に分けよう」と考えるオーナー社長もいらっしゃいます。しかしながら実際に株式を後継者以外の相続人に承継させた場合には、さまざまな問題が発生します。株主には特有の権利があるためです。

 

●株主総会で意見を述べられる。

会社の決算書や帳簿の閲覧を請求できる。

役員の解任を求められる。

会社経営の決定権を侵害されないように「信託」を利用

こういった権利を使って経営に口出しされるようになると、効率的な経営ができなくなってしまいます。次男や長女に相続させる株式を「無議決権株式」に変更することも可能ですが、そのためには全株主の同意が必要です。また、そういった株式をもらっても、換金することはほとんど不可能ですから、次男、長女にとってはなんの価値もありません。

 

それにもかかわらず、相続税の納税資金を親から相続した預貯金から出せば、価値のある相続財産が減ることになり、次男や長女は大きな不満を感じるでしょう。次男・長女に分配してもしなくても、後々大きなトラブルが生じるリスクは残ります。そんなときは信託を利用して、問題の解決をはかってみましょう。

 

このケース5の場合であれば、後継者、もしくは会社を受託者として、次男や長女が相続する予定の株式を信託するのです。受益者はもちろん、株式を預ける次男や長女本人です。この形式にすることで、「無議決権株式」に変更する場合、委託者(父)と受託者(長男)の同意があれば、他の株主の同意は不要となります。実質的には受託者となる長男が、すべての株式を保有しているのと同じように、会社の経営権を掌握できるようになるのです。

 

ただし、次男や長女にとっては支配権もなく、特に意味のない株式ですから、いずれは後継者か会社が買い取ってあげるべきでしょう。この方法は、他に相続させられる財産がない中、法定相続分に見合う財産を渡すための一時的な措置と考えるとよいかもしれません。

 

【図表 株式を後継者以外の相続人が承継した場合の信託活用法】

 

〈ポイント〉

①自社株はできるだけ後継者以外の相続人に引き継がせない。

②やむを得ず後継者以外に引き継がせる場合には、信託を活用するなど、会社経営上の決定権を侵害しないよう工夫をする。

本連載は、2014年3月20日刊行の書籍『家族と会社を守る「不動産」「自社株」の相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

家族と会社を守る 「不動産」「自社株」の相続対策

家族と会社を守る 「不動産」「自社株」の相続対策

貝原 富美子・澤田 美智

幻冬舎メディアコンサルティング

相続において、トラブルになりやすい二大財産である「不動産」と「自社株」。 税理士として長年、不動産・自社株の相続を専門的に解決してきた著者だからこそいえる、実際にあった事例を交えわかりやすく解決策を提示します…

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