(※画像はイメージです/PIXTA)

バースコントロールのために、人間はさまざまな植物を混ぜて避妊薬を作り、動物の内臓からコンドームを作って使用してきました。現在、広く利用されているピル(経口避妊薬)も、15〜16世紀にかけて栄えたメソアメリカ文明の国家、アステカの伝承がヒントになって作られています。

アステカの民間伝承をヒントにピルが誕生

現在、避妊薬として広く利用されているピルが誕生したのはアメリカでした。1800年初頭、アメリカの出生率は世界で最も高く、アメリカの女性の平均出産数は8人でした。

 

当時は、精子が子宮頸部に侵入するのを防ぐために、殺菌剤や洗浄溶液、ぺッサリー、コンドームなどが利用されていましたが、1840年代になると、多くの州議会がこれらの薬剤の販売・使用を禁止し、1888年には妊娠中絶も禁止されてしまいます。そのため、非合法の中絶手術によって命を落とす女性も少なくありませんでした。

 

ニューヨーク市で、バースコントロールを普及させるために活動していたマーガレット・サンガーは「避妊」という言葉を広め、1916年には、最初の避妊クリニックを開設しました。しかし、避妊法や避妊具を広める文書を配布するのは猥褻行為だとして、クリニックは開設から9日後に閉鎖されてしまいます。

 

それでも、彼女は月経などの性教育に関する本『すべての娘が知るべきこと』を出版し、「全米家族計画連盟」を設立し、活動を続けます。富豪であったキャサリン・マコーミックは、サンガーの理念に共鳴し、資金提供をして活動を支えました。マコーミックは、マサチューセッツ工科大学で生物学を専攻し、女性としては二人目の卒業生でした。

 

1950年、マ―ガレット・サンガーは、生殖学を研究していたグレゴリー・ピンカス博士を晩餐会に招待し、確実な避妊法をピンカス博士の研究所で早急に確立することができるか尋ねました。

 

ピンカス博士はできるだろうと答え、マコーミックから多額の研究資金を受けることになりました。妊娠中に排卵が起きないのは、胎盤が黄体ホルモン(プロゲステロン)を大量に分泌しているからだと、ピンカス博士は考えていたのです。

 

一方、アメリカの科学者ラッセル・マーカー博士は1940年代に、メキシコのヤマイモから大量のプロゲステロンを合成することに成功していました。実は、アステカの民間伝承で、避妊にはヤマイモがよいといわれており、メキシコの女性たちは、昔から野生のヤマイモを避妊のために食べていたのです。

 

植物から大量に合成できるようになったプロゲステロンを、ピンカス博士は利用しました。1955年、ピンカス博士は、黄体ホルモン剤を用いた臨床試験で避妊効果があったと報告し、1960年にアメリカ食品医薬品局(FDA)はピルを承認しました。

 

ピルによって、女性が自分の意思で自分の体を管理できるようになったので、女性の社会進出も促されましたが、当初のピルは、めまいや吐き気、頭痛や嘔吐などのほか、心臓発作や脳卒中、血栓症、肝障害などの重篤な副作用や、乳がんや子宮頸がんのリスクが報告され、問題になりました。

 

その後、低容量ピルが開発され、欧米では1970年代以降、ピルの利用が急速に増えていきました。現在、フランスでは33.1%、イギリスでは26.1%、アメリカでは13.7%の女性が利用しています。ところが日本の利用率は2.7%に留まっています。

 

海外ではピルもアフターピル(緊急避妊薬)も薬局で安価に購入できますし、未成年に無料でピルを提供している国もあります。しかし、日本でピルやアフターピルを入手するには医師の診断が必要で、普及が遅れている一因だといわれています。

 

アフターピルは性行為から72時間以内に服用すれば高確率で避妊できるので、できるだけ早く服用する必要があります。望まない妊娠をしてしまい、出産後、乳児を殺したり遺棄したりする痛ましい事件も起きていますが、女性が主体的に避妊できるようになれば、このような事件も減らせるのではないでしょうか。
 

 

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