(※写真はイメージです/PIXTA)

日米において、程度の違いはあれどともにインフレの機運がみえていることから、ヘッジ・ファンド業界では「インフレ長期化」に対応した戦略の構築が進んでいると、くにうみAI証券株式会社(元IS証券株式会社)の髙橋文行氏はいいます。インフレ長期化によるボラティリティーの上昇を収益機会に変える、ヘッジ・ファンドの「妙手」をみていきます。

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ヘッジ・ファンドは日米の物価上昇基調を注視

世界の金融市場では、インフレの長期化や金融緩和縮小(テーパリング)の見通しに神経質な展開が続いている。

 

米国の消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率は、9月まで5カ月連続で5%を超えた。日本においても9月の消費者物価指数は、前年同月比0.1%の上昇となり、1年半ぶりのプラスに転じた。

 

現在のインフレ上昇が、一時的なのか構造的な要因によるものなのか、エコノミストの中でも意見が分かれるところだが、ヘッジ・ファンド業界ではインフレ長期化に対応した運用戦略の構築が進む。

 

金利上昇局面にハイイールド債が選好されやすいワケ

 

インフレによって金利の上昇圧力が継続的に強まれば、債券のリラティブ・バリュー戦略ではアービトラージ(裁定)取引の機会が増す。

 

インフレの長期化と同時平行的に金利の変動が大きくなると、イールド・スプレッド戦略の投資機会が増える。この戦略は長短金利の相対的な変化を基に、割安と判断される債券を買い持ちし、割高な債券を空売りすることによって、裁定機会を狙う債券の利回り曲線(イールド・カーブ)戦略である。

 

また債券のリラティブ・バリュー戦略では、投資適格級社債との間で、ハイイールド社債(ジャンク債)の選好が進む。

 

ハイイールド社債は投資適格級社債と比較して金利に対する感応度が低い傾向にあるため、特に金利上昇局面においては、アウトパフォームすることが期待される。

 

残存期間が長めで金利への感応度が高い投資適格級社債と比べて、ジャンク債は利回りリセットからの影響が少ないからである。[図表1]に示されるように、最近では投資適格級社債に対してすでに下方圧力がかかっており、ハイイールド社債を大きくアンダーパフォームしている。

 

[図表1]5年米国債利回り、ハイイールド社債指数、および投資適格級社債指数の推移(出所: FRB、S&P Dow Jones Indices LLC.)
[図表1]5年米国債利回り、ハイイールド社債指数、および投資適格級社債指数の推移(出所: FRB、S&P Dow Jones Indices LLC.)

 

 インフレは株式ロング・ショート戦略に追い風か

インフレによるインプット・コストの上昇を顧客に転嫁しやすいビジネスや業種もあれば、それが困難なものも存在する。

 

また同じ業態においても、個別企業の市場シェアや参入障壁、および商品の競争優位性によって企業業績にも差が生じるであろう。

 

企業のファンダメンタル要因によって株価にばらつきが生じることは、特にボトムアップの企業分析に基づいた株式のロング・ショート戦略を実践するヘッジ・ファンドにとっては追い風になると期待される。

 

「インフレの長期化」を収益につなげられる戦略

伝統的な資産運用とは異なり、ヘッジ・ファンドの中にはインフレに対して負の感応度のある資産をショートすることによって、運用リスクをコントロールした上で、超過リターンにつなげる力量の備わった運用者が多く存在する。

 

インフレの長期化を想定すると、債券や株式などのマルチアセットを対象にしたリラティブ・バリュー戦略を多く組み入れたマルチ・ストラテジー戦略に注目したい。

 

インフレの長期化と金利上昇によって、多くの資産においてボラティリティー(変動率)が上昇すると予想される。

 

これはリラティブ・バリュー戦略を得意とするヘッジ・ファンドの運用者に対して、より多くの買い持ちと空売りのポジション構築の機会(アービトラージ取引の機会)を与えることを示唆する。

 

 

髙橋 文行

池田 祐美 

くにうみAI証券株式会社

オルタナティブ・インベストメントプロダクト部

 

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参照:Bloomberg「投資家はテーパータントラム戦略を準備、米当局の購入縮小は不可避(原文:Investors Prepare Taper Tantrum Plan as Fed Demurs On Timing)」
※本記事は、「くにうみAI証券株式会社」に掲載されたコラムを転載・再編集したものです。

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