「新しい事業を始めるとき、さまざまな課題が浮かび上がるが、それを箇条書きにしてみても、ものは考えられない。課題の大小、相互の関係、全体像などを解析するためには、図でとらえなければならない」──。セコムの創業者である飯田亮氏(現・取締役最高顧問)は、久恒氏のインタビューにこう答えたといいます。なぜ、図解思考のほうがうまくいくのでしょうか。※本連載は、久恒啓一氏の著書『50歳からの人生戦略は「図」で考える』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

「図解」は各要素の関係を明示できる

私は、あるビジネス雑誌で、名経営者にインタビューし、経営戦略を図解するという連載を持ったことがあります。セコムの創業者である飯田亮氏(取締役最高顧問)は、まさに「脱・箇条書き」の図解思考の経営者です。飯田氏はこういいます。

 

「事業を始めようとするときには、発想、人材、社会とのかかわり、資金など、さまざまな課題が浮かび上がります。そこで、こういう問題がある、ああいう問題があると、列挙してみたところで仕方がない。箇条書きでは体系化してものを考えられない。相互の関係がわからないし、あれもこれもとポイントを書き加えていくうちに混乱して、優先順位がわからなくなってしまう。第一番目はこれ、第二番目はこれ、第三番目はこれとやるわけですが、単純に列挙しただけではつながらない。斜めのものとつながったりするのが普通だからです」

 

そこで図解が登場します。

 

「箇条書きだと受けるほうも混乱してしまうから、思考停止に陥らないように、ものごとの関係を図でとらえ、大きいもの、小さいもの、前後の関係、因果関係などを解析していかなくてはなりません」(飯田氏)

 

つまり、各問題間の関係を示してある図解で仕事に取り組めば、中身が膨らみながら発展していくということでしょう。

 

図解の第一の特徴は、要素の大小や、どれが原因でどれが結果なのか、あるいは、どこが共通点で重なる部分なのか、といった各要素の関係性が明確になることです。

 

私はこれまで、ビジネスパーソンや公務員を対象に図解の研修を数多く行ってきました。対象者のほとんどは、文章による情報伝達や箇条書きに慣れ親しんだ人たちでした。彼らが図解の研修を受けて、最初の反応で最も多いのが「驚いた」という感想でした。

 

「図解で示すと文章で書くより、全体や個別のものごとの一連のつながりなどが、こんなに簡単に表現できるものかと驚きました」「表現力の大きさに驚かされました」といった声が、こちらも驚くほど聞かれました。文章至上主義と箇条書き信仰の人々にとって、図解によって「つながりが見える」「つながりを表現できる」という発見は、驚きだったのでしょう。

 

図解することは、けっして難しいことではありません。簡単にいえば、マルと矢印が描ければ、年齢や学歴、教養のいかんにかかわらず、誰でも図を描き、図を使うことができます。

 

図解は、仕事やプライベートなことで何か問題が起きたときにも活用できます。

 

まず、白紙を用意し、問題点を真ん中に書き、そのまわりに思いつくままに関係する項目を書き込んでいきます。

 

そして、「これとこれはどう結びつくだろうか」「AとBではどちらの重要度が高いだろうか」などと、マルで囲んだり、線を引いて結びつけたり、矢印を描いたりしながら考えてみます。

 

手を動かしながら、紙の上でいろいろとシミュレーションをしていると、ものごとを具体的に考えながら、本質的に大切なことは何かがわかるようになり、頭のなかで悶々としていたのがウソのように、あっさりと解決策が見つかることが多いのです。

 

人と議論をするときも同様です。相手と自分のいい分が対立しているとき、紙に論点の全体像を描きながら、その論点についての相手のいい分と自分のいい分について図解してみる。すると、どの部分が共通点で、どの部分が対立的かが明確になり、歩み寄りが可能なポイントが浮かび上がってくる。それを提案すると、相手も納得してくれることが多い。

 

それぞれの部分を結びつけることによって全体像が浮かび上がる。あるいは、全体の構造を描いてみることによって、それぞれの部分が意味づけられる。「木を見て森を見ず」ではなく、図解は「木を見て森を見る」と同時に「森を見て木を見る」ことができるようになるでしょう。

 

久恒 啓一

 

多摩大学大学院客員教授・宮城大学名誉教授・多摩大学名誉教授

 

 

 

50歳からの人生戦略は「図」で考える

50歳からの人生戦略は「図」で考える

久恒 啓一

プレジデント社

「人生鳥瞰図」で仕事も人生もうまくいく! 大人のためのキャリアデザインの教科書。 私は日本人の「アタマの革命(図解)」と「ココロの革命(遅咲きの人物伝)」の二つをライフワークとしている──。 こう語るのは、…

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