古代エジプトの薬と治療
紀元前3300年から525年まで続いた古代エジプト文明では、呪術や宗教的儀式で治療を行う面もありましたが、医師もすでに存在していました。エジプトの医師が優秀なことは広く知られており、他の国の王族が治療を求めることもあったようです。
医師はエジプト各地におり、男性医師に関する最初の記録は紀元前2700年に遡り、医師へシーラは王の「歯科医師および医師の長」であったと書かれています。女性の医師に関する最初の記録は紀元前2400年で、女性も医師として活躍していたことがわかります。医師たちは歯科医、肛門科医、消化器科医、眼科医など、各々が専門分の分野で働いていました。なお、肛門科医は「肛門の羊飼い」とも呼ばれていたようです。
紀元前1500年頃に書かれた医学書『エーベルス・パピルス』には、病気を起こす悪魔を退治するための呪文や魔術など約700以上の治療法を記載しています。
患者から寄せられた主な症状は、風邪や消化器系の症状、頭痛だったようで、頭痛には、ミントや雄鹿の角、いちじくの種などを擦って混ぜ合わせ、頭に塗っていました。
また、喘息には蜂蜜と牛乳、ごま、乳香を、火傷や皮膚疾患にはアロエを使っていました。痛みを訴える場合はタイムを、消化器系の問題にはミントやニンニク、白檀、ジュニパーを利用したようです。嘔吐を止めるためにはミントを、逆に嘔吐させたい場合はマスタードを使いました。
その一方で、人体の骨格構造や血液循環の仕組みなどに関する科学的な記述も残っています。『エーベルス・パピルス』に記された古代エジプト人の心血管系の理解について、「正確ではないにしても、驚くほど洗練されている」と評価している研究者もいます。
なお、当時の医師にとって皮膚の表面や皮膚に近い部分での手術は一般的な技術であり、骨折や脱臼した関節の治療も行なっていました。ただし、麻酔薬や消毒薬はなかったので、体の奥深くにある臓器などへの手術は行なっていなかったようです。